全能神アール

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全能神アール

▽王都プラミール 「全能神、この地に何の用だ。」 王都プラミール上空。武神ミトラは突如として、扉から出てきた全能神と対峙していた。完全武装をして、警戒心を最大限に出していた。 「なに?久しぶりの挨拶なのにつれないなぁ。はぁ…つまんない。」 武神ミトラと対峙する全能神はけだるそうである。肩ほどまでの黒髪、前髪はピンクのシュシュで纏めている。パッチリとした目は黒い瞳をしている。元気いっぱいな雰囲気を持った少女だ。ただ、服装はこの世界にない服を着ていた。高校生。見た目を表現するならそれが適切だろう。革靴に黒いタイツ、紺のスカートに紺のブレザー。その上にはピンクのセーターを来ている。異世界人が見れば、間違いなく女子高生と言うだろう。 「アール様よお、それじゃ武神に答えてねえじゃんよ。」 「…………」 全能神の左右に佇むうちの左に佇んでいる少年が全能神に言った。緑の髪は短髪、瞳も緑。白いワンピースを着ていて裸足だ。見た目だけでは少女と言われてもわからないが、声は男の声そのものだ。 右に佇む女は物静かで無表情だ。金髪翠眼、整っている顔はどこか大人の女性の雰囲気を持っていて美人ではあるが、その無表情で冷徹な雰囲気が美しさを損なわせている。白銀の鎧を上半身に装備し、黒いミニスカートを履いている。白いニーハイソックスはその美脚をくっきりと出し、どこか色気もある。 「ノルドもアッシェもつれないとか、ほんとつまんないし…。」 「我の領域に突然の来訪。それも全能神だけでなく、時神と速神まで居るとは何事だ。」 項垂れる全能神を他所に、武神は武器に手を掛けていた。神が三柱も現れるとは、ただ事ではない。自国の神である武神ですら人々の前に現れることなど滅多にないのだ。 全能神達の返答を聞く前に、この場に新たに現れた者達が居た。 「テトラ様!これはどういう事ですか!」 「面白そうなことやってんじゃねぇか!」 「こんなことしてる場合じゃないのに…。」 ユウと一緒にこの世界へ来た、勇者達だった。現れた勇者は三人、大勇者エイジ、烈火ツヨシ、賢者マイだ。それぞれ武器を構えて、臨戦態勢だ。 「下がれ。勝手な真似はするな。お前達では到底敵わない。」 視線は三柱の神へ向けたまま、武神は背後に居る三人の異世界人へと警告する。相手は神。それもこの世界でもっとも力を持つ神達だ。武神ともまともに戦えない異世界人達では戦いにすらならない。 「お!その三人ってもしかして、ユウジと一緒に来た異世界人じゃない!?」 先程まで気だるげだった全能神は一転、エイジ達異世界人を見ると興奮しだした。その全能神の言葉に真っ先に反応したのは、賢者マイだった。 「ユウジ?なんで、貴女がユウジのこと知ってるの!?」 「そこかよ。俺はそんな事より神と戦えるかもしれないことの方が断然面白そうに思えるけどな。」 「いや、それより俺は彼女の服のことの方が気になるかな。なんで異世界のJKなんだ?彼女も元は転生者なのか?」 三人ともそれぞれ疑問に思うところがあるようだが、全能神はそれに答えない。三人とは話をする気はないようだった。 「…そうだ。だが、今それは関係ないだろう。用がないなら帰ってくれ。」 「いや、関係あるから。あたしはね、ユウジ・トウジョウを引き渡してほしくて来たんだよ。だからほら、さっさと渡して。」 さっきまでの感情豊かな少女はどこに行ってしまったのか。今の全能神の声はとても冷えきっていて、眼光も鋭い。 「ユウジ・トウジョウは死んだ。引き渡すことはできない。」 「はぁ?何言ってんの?そんな嘘が通用するわけないでしょ。ユウジが生きてるのは知ってるし、ここに居るのはわかってる。」 「我はユウジ・トウジョウが生きてるなど知らぬ。」 「へぇ?とぼけるんだ?それとも冗談だと思ってる?それなら…」 「ッ!」 全能神は左手をあげた。掌をプラミールにある城へと向けて。何かを察したのかその射線上にテトラは瞬間移動したかのように移動する。 「こうなるよ?」 ドッ! その言葉と共に、なんの予兆もなく掌から極太の光線が放たれた。継続的な物ではなく、単発でプラミールを守る全長二十メートルの門を飲み込んでしまいそうなほど極太の光線。 光線の射線上に居たテトラは、腰に下げてあった手斧を両手で握り、光線に叩きつけるように振り下ろす。光線と手斧がぶつかった瞬間、光線は押されたかのように捻じ曲がるが、それも一瞬。テトラを押し返そうとする。勢いにテトラは少し後ずさるが、手斧を反して光線の勢いを逸らす。光線は逸らされた方向へ飛んでいき、遥上空へと消えていった。 王都プラミールの人々も異世界人達も唖然とする。あんなものが城に当たっていれば、城は消し飛んでいたと安易に想像できるからだ。 「なにをする。」 「口で言ってもユウジを渡してくれなそうだし、力ずくでユウジを渡してもらおうかなって。」 あれだけの光線を対処したにも関わらず、武神ミトラは何事もなかったかのように、全能神と対峙する。一方全能神は、冷めた態度は崩さず当然のように言い放つ。 「いやいやいや、アール様それはないっしょ。よく考えてよ。ユウジの事だしトーカだっけ?アレに言われてコソコソしてるだけかも知んないじゃん。」 「…………」 時神ノルドは、全能神を論すように言った。事を荒立てれば、ユウジなら出てくるかも知れないと思いながらもそれは言わない。この全能神はなにをし出すか分からないからだ。 「あー。あの呪刀か。たしかにアレならやりかねないねぇ。…それじゃ、ほんとに武神は知らないの?ユウジのこと。」 「知らないと言っている。ユウジ・トウジョウは死んだ。それが事実だ。」 武神の答えに思案気に腕を組んで目を閉じる全能神。時折うーん。と唸る声が聞こえる。それをただ待つ武神。 「まずいのう」 上空で、全能神達と武神達が向かい合う中、トーカは呟いた。 「いったいどうなっているんだ?武神ならともかく、なんで全能神がユウを欲しがる。」 「ユウの影って君の事ね。ほんとやってくれたわ…。」 ノインは疑問を浮かべ、事態の深刻さに戸惑っているように見える。フィーナはこれから起こりうる出来事がわかっているのか、落胆を隠さない。 「ノイン。全能神アールはユウになる前からユウジを知っておる。そしてヤツはずっと主を付け狙ってきたのじゃ。」 簡潔に、今必要となりそうな情報だけをノインに話すトーカ。必要以上に長話しをしている時間はなかった。そして、今度はフィーナの方を向いてトーカは口を開いた。 「どう転ぶにしても、ギルドの依頼受注の履歴をヤツらは探すじゃろうて。」 「えぇ、わかってるわ。今、この混乱を利用して何か手を打っておくわ。…これもユウの為だものね。行ってくるわ。」 トーカがなにを言いたいのか、まるでわかっていたのかのように話すフィーナ。フィーナはそのままギルドの中へと入っていった。これからユウに関わる証拠をなんとかするのだろう。 「唯一、助かったとすれば今、この場にユウがおらん事じゃのお…。」 「ユウなら間違いなくこの状況を見過ごせず、あの中へ割り込んでいただろうからな。…すまなかった。我々だけで対処するべきじゃなかったな。」 「済んだことは仕方ない。既に起きてしまった事じゃし、儂達はただユウを守る事じゃ。」 ノインは頷く。そしてそのまま、建物の影の中へ溶けるように消えていく。同じ影の者達へ伝える事と、これから起きる事への対策を練るつもりだろう。 「儂は姿を晦ますしかないのお…。ユウを連れ去られるわけにはいかぬからな。ユウは儂のものじゃ…。」 トーカの呟きは誰の耳にも届かない。そのまま、トーカも影の中へと消えていく。 王都プラミールへ突然起こった神々の襲来。まだ事態は収まりそうになかった。
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