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王都の異常を知る狐姫
「ユウ、そろそろ交代だけどいいかな?もし疲れてるならこのまま僕が警戒しとくけど。」
エミール君の声で、わたしは眠りから覚めた。傍らにはリアがわたしに抱き着いて眠っている。わたしは眠い目をこすりながらエミール君に返事をする。
「大丈夫。今そっち行くから待ってて。」
「わかった。無理はしないようにね。」
わたしは起き上がりながら、リアの手を解いていく。時折、うーん。とかユウ様とか呟いてるけど、構わず解く。
起き上がったわたしは薄暗い中、陽の光が入っきている場所を目指す。布地を避けて顔を出せば、天敵太陽様が――。
「ぐぬぬぬぬぬ。」
「ど、どうしたのユウ?」
「あ、大丈夫。しばらくしたら慣れるから。」
「そ、そう?ならいいけど。」
薄く目を開いて徐々に太陽の光に慣れてくると、視界には緑と馬と御者のおじさんとエミール君が見えた。
わたし達は馬車に乗っている。クィート村で事後処理を終えたわたし達は、その足で王都プラミールを目指していた。
レリオと聖教騎士団は、聖女セシリアによって、一度聖国フェニエへと帰還して報告と療養を命じられてた。案の定、レリオは黙ってなかったけど、それでも聖国フェニエでは聖女の言葉は絶対と言っていいほどの効力がある為、笑顔のリアによって渋々だったけど従っていた。
そして、帰りの馬車でわたしとリアとエミール君が乗ることになったんだけど、流石に御者の人に任せて眠りこけるわけにはいかなかったから、エミール君が名乗りを上げて周囲警戒の役を買ってくれた。それにわたしは交代でやろうって条件で了承して、今交代の時間になったとこ。
「エミール君、ありがとね。疲れたでしょ。あとは到着まで寝てていいよ。…あ、お昼ご飯は作って。起こすから。」
「あぁ、わかったよ。それじゃ、お言葉に甘えて少し仮眠を取らせてもらうね。」
そのまま、エミール君は荷車へと入っていった。昨日からほとんど寝てないだろうし、ゆっくり休んで欲しいよね。お昼ご飯は作ってもらうけど。
エミール君が荷車に入っていった事で、わたしは御者のおじさんと二人きりになってしまった。ぼーっとするのは得意だけど、せっかくだから御者の人と話してみよう。そう思って口を開きかけた時、荷車から騒がしい声が聞こえた。
「んんぅ…。ん?あれ?ユウ様…?ユウ様!?どちらへ行かれたのですかッ!?ユウ様ッ!」
リアだった。どうやら起きたらわたしが居なかったのに相当慌てたらしい。なにか、トラウマのような事になっちゃってるのかな?いや、でもユウジだった頃だってリアと一緒にいた期間はとても短かったはずなんだよね。どうして、そこまで慌てるほど気にかけてもらっているのか全く分からない。
あ、ちなみに寝たはずのエミール君がリアを宥めてくれたみたいで、そんなにかからず静かになった。ここは、エミール君に感謝だね。あんな状態のリアにわたしが行ったら安心はするだろうけど、めちゃくちゃ問い詰められそうだし…。
「ユウ様…。」
「リア、おはよ。よく寝れた?」
少しすると、落ち着いたのかリアが御者の方へ顔を出してきた。太陽には強いらしい。ちょっと羨ましい。
「はい。あの…ユウ様のお隣に行っていいですか?」
なんだろう?洞窟前の時もそうだったけど、わたしの傍に来るのに許可が必要なんだろうか?それだとトーカとか、フィーナはいつも近いんだけど…。もうちょっと気軽でも良いよね。わたしも毎回答えてあげてもいいんだけど、好きにしてくれていいと思うし。
「リアの好きにしたらいいよ。遠慮しなくてもわたしは嫌じゃないから大丈夫。」
わたしがそう言えば、聖女らしい輝く笑顔を浮かべて嬉しそうに隣に座った。わたし達はそのままお昼になるまで、景色を見たり会話をしたりしながら、馬車に揺られた。
あ…。御者のおじさんと話しそびれて、結局話さなかったな…。そんな事を頭の片隅に浮かべながら平和な時間は過ぎていった。
お昼を食べ終えて、馬に充分な休憩を与えたあと、わたし達は王都プラミールへ向けて馬車を走らせていた。
エミール君は荷車で仮眠中で、わたしとリアと御者の人が並んで座って居る感じだ。そうそう、なんかエミール君サラッと一緒に王都プラミールへ行ってるけど、旅の途中でこれも何かの縁だしもう少し王都プラミールに滞在する予定らしい。
「そういえばさ。」
「どうしました?ユウ様。」
横に座るだけじゃなくて、わたしの左腕に絡みついているリアに疑問に思っていたことを聞く。
「リアはわたしに何が起きたのか聞かないよね。気にならないの?」
「そうですね。気にならないことはないです。それでも、ユウ様はユウ様ですし、今こうして無事で居てくださるだけで充分です。」
う、うーん…。言ってくれる事は嬉しいんだけどリアはこれでほんとに大丈夫なのかなぁ?でも、正直言えばありがたかった。言える事と言えない事があるからね。まぁ、今後のこともあるから、トーカやフィーナについては話しておかないといけないんだけど…。
そんな風に、リアとの今後の事について考えていると、前方から装飾の綺麗で豪華な荷馬車が十人前後の護衛と、何台かの馬車と共にこちらに向かって来るのがわかった。
走ってきた方向からして、王都プラミールから来たんだと思う。エミール君の話によれば、わたし達は王都プラミールまで後二時間かからないくらいらしい。あんな大所帯でどうしたんだろう?と考えているとリアも気になったらしい。
「なんでしょうか?ただの商人や貴族ではなさそうですが…。王族でしょうか…?」
「どうなんだろうね。ただ事ではなさそうだけど。」
そうしているうちに、馬車は近くまで来ていてすれ違おうとした。その時護衛についていた冒険者っぽい人が声をかけてきた。
「おい、嬢ちゃん達!これから王都に向かうのか?」
「はい。私達は依頼の帰りで、これから王都に帰還する予定です。」
わたしではなく、何故かリアが対応してくれた。助かる。
「あぁ、なるほどな。でも、やめた方がいいぞ。今、王都じゃ神様が四柱も顕現しててな。なんか人探しをしてるらしいんだが、その人が明日までに見つからないと王都を壊滅させるらしいんだ。」
「神々の顕現…。いったいなぜでしょう?その探し人はよほどの大罪を犯したのでしょうか…。」
王都に神が顕現かぁ。それも四柱も。神が人間達を守る事があっても、わざわざ干渉して都市一つ壊滅させようとするなんて滅多にない。過去には神の怒りに触れた事でそういったこともあるけど…その探し人とやらはよほど神を怒らせたのかもしれない。
「いや、それがな。話を聞く限り、その神様はどうも探し人は想い人らしいんだよな。国中を上げて探し回ってるんだが、手がかりだけで見つからないんだ。このままいけば王都は滅びる。その前に退散しようってなったんでな。」
想い人を探す為に、都市一つ滅ぼすのか…。神様って怖いね。強大な力を持つだけに気まぐれを起こされるとたまったものじゃない。それにしても、そんな馬鹿なことをする神なんて居たかなぁ?…うん、居るね。むしろ日々退屈してる神ばかりだから、ちょっとした事で大胆な行動に出る神ばっかりだった。
「なるほど…。それは私達も協力しなければなりませんね。王都が滅びるのであれば、阻止しようと動くのが聖女たる私に課せられた使命でしょう。それで、探し人の手がかりとはなんでしょう?」
「嬢ちゃん聖女様だったのか。そりゃ、神様の意思に従いたいよな。探し人はここ最近、王都では有名なんだけどよ。ずっと正体がわからなかったんだよな。嬢ちゃん狐姫って知ってるか?」
「狐姫……。」
リアのわたしの腕を抱きしめる力が強まった。ってそうじゃない。なんで、わたしを探してるんだ。
「そうそう。狐姫!なんでも、綺麗な長い黒髪で種族は妖怪族狐人、超絶美少女で九本の尻尾があるらしいんだよな。王都で最近プラチナ冒険者として大活躍していた狐姫の正体がこんな形で世間に広まるとは思わなかったけどよ。神様が言うほどの美少女なら一度は見てみたいよな!」
なぜか、冒険者風の男は興奮気味。隣のリアは顔は伏せていて表情は見えないものの、わたしを抱き締める力は強いし、なんかプルプル震えている。なんかまずいと直感で悟ったわたしは冒険者風の男に言った。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。わたし達も探してみるよ。急ぐからこれで。」
「ん?あぁ、気をつけていけよ!呼び止めて悪かったな!」
そう言って冒険者風の男と、馬車達は去っていった。
さて、どうしたものかな…。リアにはとりあえず触れない方向で…。なんか怖いし。
うん、こうやって困った時はトーカさんだね。そう思い、わたしはトーカを呼び出す事にした。
「トーカ、来て。」
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