聖女は奪われるくらいなら討ち滅ぼしたい

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聖女は奪われるくらいなら討ち滅ぼしたい

「主よ。早いお帰りじゃのお。…ん、やはりそうなったのじゃな。」 トーカは人型の状態でわたしの隣に現れた。そのまま状況を見て言った。視線は隣のリアに向いている。 わたしとトーカは、この世界の不思議な力によって繋がれている。スキルと呼ばれるその力はこの世界に居る者には必ず、何かしらのスキルを与えられている。トーカは呪刀であり魔刀で、わたしの持つ二つのスキルの内の一つ魔剣召喚(インビテーション)によって召喚された刀がトーカの実態だ。 最初、召喚した時こそただの魔刀と呪刀としての力を持つだけの刀だったんだけど、その力を使う為の代償を払っていくうちに人型を取るようになっていった。今では、戦闘時以外は完全に人型で独立した行動をしている。 「…ユウ様?こちらの綺麗な女性はどなたですか…?」 トーカを見て、いろいろ思い出していたわたしに抱き締める力を強めたリアが聞いてきた。視線はトーカに向いていて、何故か睨んでいるけど。 「トーカだよ。ほら、わたしの刀。」 「ただの刀ではないがの。ユウと儂には何者にも切れぬ(えにし)があるのじゃ。唯一絶対の運命共同体と言うやつじゃな。」 トーカの言うことは間違ってない。元々は魔剣召喚(インビテーション)で召喚した一時的な契約の上での魔刀だったんだけど、崩壊しかけたユウジ・トウジョウから今のわたしになる際に、莫大な代償と契りをした事でわたしの死とトーカの死はどちらもお互いを消滅させてしまう程の強固な契約となってしまった。これはトーカが魔刀ながらも呪刀であったからこそできた事なんだけどね。 「ユウ様と運命共同体…。」 なにやら深刻そうな顔でリアが呟く。そんなに思い詰める事でもないんだけどね。互いの死が一緒ってだけで、死ななければなんともないんだし。 そう思うわたしだけど、リアにとってはその程度で済まされなかったらしい。今でも深刻そうな顔をしている。声をかけようか迷っているとリアが顔をあげた。 「それでも私は負けません!絶対にユウ様から離れませんから!」 ……なんの話しだろうか?わたしにはさっぱりなんだけども。何かの勝負でもしていたの?わたしから離れないのはリアの自由だけども。 「せいぜい頑張るのじゃな。儂とユウはもう決まったことじゃが、ユウは手強いぞ。」 「……それでも私はユウ様の隣は誰にも譲りません。」 あれぇ…トーカとは会話が成り立ってる…。なに?わたしだけ置いてけぼりな話しなの?でも、会話の中心にいるのはわたしっぽいし…なんなんだろう…。 「おっと、これ以上はユウの機嫌が悪くなりおるのお。聖女よ話しは後じゃ。」 「ユウ様、申し訳ありません。」 なんか、話しは終わったみたいなのでトーカを呼び出した本来の目的の話しをしようと思う。 「……王都プラミールで何が起きてるの?」 「はぁ…そう拗ねるでない。昨日じゃ、王都にヤツが現れた。全能神じゃよ。」 拗ねてたのバレてる…。い、いやまぁ、それは置いといて。全能神ってあの全能神だよね?なにしに来たのさ。あ、人探しだっけ?それもわたしを探してるとか。 「全能神ってネイの事だよね?」 「そうじゃな。ただ、ユウよ。あまり神の真名を易々と呼ぶものではないぞ。」 「真名ってなに。ネイにはネイだよって自己紹介からそれしか知らないんだけど。」 そうなのだ。ネイは最初に会った時からネイって紹介されてネイって呼びなさいって言われている。それ以外の名前なんて知らない。あ、全能神って呼べば良かったのかな? 「ユウ様…全能神様はアール様というお名前では…?」 「アール?そうなの?」 「いや、聖女よユウはこれでいいんじゃ。ユウに全能神の前でアールなんて呼ばせてみい。一瞬で王都なぞ滅び去るぞ。」 え、なにそれこわ。アールって名前も間違ってないらしいけど、アールとは呼ばないようにしよう。なんでか知らないけど、それで王都が滅びても困る。まぁ、そうなっても全力で止めるけども。 「して、儂を呼び出したんじゃ。何かしら事情を知って呼んだのじゃろう?」 「うん、なんかわたしを探してるとかなんとか?わたしが見つからないと王都が壊滅するんでしょ?」 「そこまでわかっておるならよい。さて、ここからが本題じゃが…。」 トーカはそこで言葉を区切り、なにやら言いにくそうにしている。なんだろう。ちょっと嫌な予感がする。 「ユウよ。このまま王都に帰らず他の場所を拠点とするつもりはないかの?」 「え、なにそれ。ないよそんなの。」 即答だった。わたしは王都が好きで馴染んでいる。わたしがこの世界に召喚された場所で、いろいろあったけど安息の宿の人達や、冒険者ギルドなんかも馴れてきた。なんせ、わたしはあまりコミュニケーションが得意じゃない。そんなわたしがあの地を捨てて、新しい場所で再スタートはちょっと厳しい。 まぁ、それでも多くの時間を共にしてきたトーカが本気でこういう事を言わないのをわたしは知っている。たぶんいつものやつだと思う。楽な手を見せてから大変な道もあるけどみたいな感じのやつ。わたしが楽な手をあまり選ばないのを知っているからこそ、トーカが良く使う話し方だった。 「そうじゃろうな。なら、ヤツらと戦えるかの?」 全能神と戦う、か…。やれない事もないと思う。でも、全能の名は伊達じゃないんだよね。全能――つまり、全スキルを使うことができるらしいんだけど、弱点が無いわけじゃない。全ての人が習得できるスキルは全部使える反面、固有能力(ユニークスキル)と呼ばれる特別なスキルは使えないって点だ。わたしの二つ目のスキルがこの固有能力(ユニークスキル)に当てはまるんだけど…だからといって簡単にいく相手じゃない。 もろもろを考えて、勝算とかを立てているとリアが反応した。 「待ってください。」 「なんじゃ、聖女。」 「神様と戦うとはどういうことでしょう?私は聖女で、聖国フェニエに居られる創造神フェニエ様に仕える身です。神様との争いを認めるわけにはいきません。」 あー、そっかそっか。リアは聖女なんだもんね。わたしみたいに、信仰心もなければ神様と戦うなんて信じられないって感じなんだろうね。 うんうん、と頷いていると急にトーカの雰囲気が変わった。なんか怒ってるぽい。すんごい冷たい雰囲気。どしたのトーカ。 「去れ。」 「はい……?どうしてでしょう――」 「去れと言っておるのじゃ。今すぐじゃ。」 リアに向かってトーカが言う。視線も冷たい。まるで敵に向ける視線のように厳しい。わたしは全然状況についていけない。 「聖女よ、お主にユウの近くに居る資格などないわ。神と争うのが認められぬじゃと?お主の信条など知らぬ。今王都から離れれば戦わずして済むじゃろう。じゃが、ヤツらはユウを追ってくるぞ?」 「……どうしてそこまで執拗にユウ様を追うのですか。」 「ヤツら…いや、全能神はユウを欲しておるのじゃ。ユウを神界に連れ帰り、自らの伴侶として傍に置く為にな。ユウが戦わないのならいずれ連れ去られるじゃろうな。お主がユウに神と戦うなと申すなら、傍に居る資格などありはせん。どの道、嫌でも傍に居られなくなる選択をしているのじゃからな。」 んん?初耳なんだけど?なんだって?ネイがわたしを神界に連れ帰る?それも伴侶にする為?伴侶ってアレだよね、夫婦ってやつだよね。いや、嘘でしょそれは流石に。ネイって会うといっつも笑顔で戦いたがるじゃん。そんな雰囲気一切無かったけど。 「……トーカ様。それは事実なのですか?全能神様はユウ様を神界へ連れ帰るとは事実なのですね?」 「ああ。事実じゃ。分かったのならさっさと去るのじゃ。これからの会話に邪魔で――」 「ユウ様、全能神様を討ち滅ぼしましょう。」 「は?」「へ?」 リアの聖女とは思えない発言に、トーカとわたしは目を丸くした。 いったいどういう心変わりなの…。わたしには難し過ぎるのかもしれない…。 こうして、わたし達は神と戦うことが決まった。いろいろ戸惑うことが、多いけども大人しくさせてから、いろいろ確認すればいいかなって考えながらわたし達は王都へ向かった。
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