何やってるの

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何やってるの

▽勇者パーティ賢者 マイ・カンザキ 焦りや安堵、喜びや怒り。いろんな感情がわたしの心を渦巻いていた。安堵や喜びはもちろん、ユウジが生きてこの王都に居ることがわかったこと。それはずっと探してきたわたしにとって、何よりも朗報だった。 焦りや怒りは、あの全能神と速神だ。悔しいけど、すごく可愛くて綺麗な人達だった。あんなのがユウジと知り合いで、しかもユウジに迫っているなんて知らなかった。そして、わたしよりこの世界でのユウジの事を知っていた。腹立たしい。わたしの知らないユウジを知ってるなんて気に食わない。 「マイ、怖い顔をしているよ。可愛い顔が台無しじゃないか。」 この話しかけてきたのは、この世界に一緒に召喚されたクラスメイトのエイジ・キサラギ。わたしはユウジみたいに鈍感じゃない。こいつの気持ちは察している。けど、わたしは大嫌いだから迷惑だった。これがユウジだったらなと何度思った事か。 「うるさい。わたしは今忙しいの。話しかけないで。」 あの神達からユウジを探すように言われて、ミトラと共に王城へ戻ってきたわたし達は一刻も早くユウジを探し出すために、各自で動いていた。わたしは一度あてがわれた自室に戻って準備をしたかったから歩いていた所、何を思ったのかこいつは着いてきた。 「あぁ、わかってるよ。ユウジの奴に怒ってるんだろ?俺達があれだけ探したのに、本人は暢気に王都で過ごしてたんだからね。それは怒りも湧いてくるよ。」 「わたしがユウジに怒る?何言ってんの?ユウジがわたしの前に現れないって事は事情があるんでしょ。あの全能神が言ってたじゃん。性別も種族も変わっちゃってるって、そんな大変な事になってるなら来なくて当然。まったく怒ってないから。」 ここ最近は仲を深めようとしているのが丸わかりな接し方だった。でも、今は違う。こいつはわたしの中でのユウジの評価を下げようと必死だ。露骨すぎるそれは嫌悪感しか抱かない。そんな最悪な時間が早く終わらないかと歩き続ければ、目的のわたしの自室へとたどり着いた。 「じゃ、わたし仕度してユウジ探しに行くから。さよなら。」 それだけ言って返事も聞かずに扉を閉める。やっと解放された…。でも、のんびりもしてられない。誰よりも早くユウジを見つけて、わたしの元へと帰ってきてもらわないと。 二日が経った。わたしは勇者パーティという知名度と好感度をフルに使って、王都から情報を集めまくった。分かったことはユウジは冒険者ギルドに登録していて、最近噂されているプラチナ冒険者の狐姫と同一人物ってことだけ。居場所はもちろん、見つけることはできなかった。 それは、他の勇者パーティの皆や王都中の人達も同じだった。そして今日は約束の日。全能神と速神、時神が訪れる日。 昨日の時点で、王都の住民達や貴族、商人など直ぐに動くことのできる人達は王都から脱出していたらしい。探すのに必死で、わたしはその事をついさっき知ったのだけど。 「マイ、やっぱりユウジは現れなかったね。これはもう、さすがに神様の勘違いじゃないかな。」 またお前か。そう思った。ただでさえ、ユウジが見つからなくてイライラしているのに、どうしてお前にまでイライラさせられなければならないんだろう…。わたしは無視する事に決めて、ミトラから告げられた集合場所に向かう。 途中、見知った他の勇者パーティのメンバーに出会った。 「マイちゃん、大丈夫?」 「ううん、さすがに今回は見つかってくれると思ってた。」 わたしを気づかって話しかけてくれたのは、ナナミ・ヨシノ。元の世界でクラスメイトで一番仲のいい友達だった。ナナミもユウジをわたしとは別で懸命に探してくれたらしい。召喚士と呼ばれるナナミは、動物や魔物、精霊など様々なものを召喚して使役する事ができる。今回はそれを使ってユウジ捜索に力を貸してくれたんだと思う。 「うんうん、そうだよね。でも、大丈夫だよ。わたし達、これから神様と対峙して危ない目に合うかもしれないけど、そういう時は決まってユウジ君が助けに来てくれる!そしたらマイもまた会えるでしょ?」 そう言うナナミの手は震えていた。怖いんだと思う。神様なんて呼ばれる者達は、恐ろしいほど強い。それはわたし達の召喚者でもある武神ミトラで痛いほど知っていた。今のわたし達じゃ勝てないこともわかってる。けど、召喚時の契約によってわたし達はミトラが戦えと言えば戦わざるを得ない。 そんな大切な友達が、自分の恐怖を押し殺してまで、わたしを慰めてくれたのが嬉しくて、でもこれから起こる事に恐怖を抱きながらもわたしはナナミに感謝した。 「ありがとう。ナナミ。」 わたしとナナミは(エイジもいる)ミトラの言った集合場所、王都中心地にある噴水広場に辿り着いた。そこには先に来ていた勇者パーティの残りの二人と、王都を護る騎士達が居た。わたしは勇者パーティのうちの一人に話しかける。 「カンナ先輩。」 「ああ、マイか。……ユウジを見つけたかったな。残念で仕方ない。」 カンナ・ヒジリ。わたしの二つ上の先輩だ。凛とした佇まいと美しい顔は女のわたしでも羨ましくなるほど美人だ。カンナ先輩は、信頼のおける一人で、戦いでも武術や剣術、柔術などを駆使して戦っていつも助けられている。完璧超人。そんな人だ。……まぁ、本当の完璧超人で完全無欠な人を知ってるけど、それでもこの世界では一番頼りになる。 「おっと、そろそろ武神が来るみたいだ。厳しい戦いになるだろうけど、お互い生き残ろう。」 「……はい。」 カンナ先輩とそこで話しを終えると、カンナ先輩の言った通り武神ミトラが現れた。音もなく、まるで始めからそこに居たかのように、空中で腕を組んでこちらを見下ろしている。初めて全能神が来た時のように完全武装だ。こころなしかいつもよりも厳しい表情をしている気もする。神でも神と戦うのは緊張するんだろうか。 「我々はこれより、全能神アールと速神アッシェ、時神ノルドと戦う事になる。我が名は武神ミトラ、あらゆる武を制し神なり!私欲にまみれ、この地を滅ぼさんとする神を討つ!神に挑みし、強者達よ!我に続け!」 黙す勇者パーティを他所に、騎士達は大歓声を上げた。うるさいと思うほどの声の中、それを合図かと言うようにミトラの遥か先の上空に門が現れた。あの門だ…。 白い装飾のない門。質素な創りなのにどこか神々しさを感じられる。その扉が開いた。 「おー、集まってるねぇ!」 現れた女子高生のように制服を着た神をわたしは睨んだ。 「で?見た感じユウジは居ないようだけど、どういう事かな?」 不機嫌な態度を隠しもせず、全能神は言った。わたしは一昨日のように感情が昂らないように気をつけていた。ここでわたしが、全能神の気を引いてはいけない。作戦が狂ってしまう。ただでさえ、負ける可能性の高い戦いなのにわたし一人の勝手でさらに不利にする必要もない。 「たしかに、ユウ・アトライトは実在しこの王都に滞在していたらしい。」 「ほら、言った通りじゃん。で?なんで連れて来ないのさ。」 答えたのはミトラだった。これでいい。大まかな全体の動きは単純だった。ミトラが全能神を、騎士団が速神を、そしてわたし達勇者パーティが時神を叩く、それだけだ。 「……ユウ・アトライトはこの王都で冒険者ギルドに登録しプラチナ冒険者として活動していた。二つ名は狐姫。」 「おー、さすがユウジだね!プラチナ冒険者って冒険者の中でも強い人だったよね?にしても狐姫かぁ。たしかに狐だし、見た目は綺麗だから姫ってのも合ってるねぇ。その名前付けた人はなかなか見所があるね!で、ユウジは?」 時神の能力はあらかじめミトラから聞かされていた。名前の通りと言えばそうなんだけど、時間魔法っていう固有能力(ユニークスキル)を持っているらしい。神らしく肉体は強靭だけど近接戦闘はまったくできないらしい。わたし達が勝てるとすれば、その近接戦闘に持ち込むことだけ。 「……分かったのはそこまでだった。居場所は分からず連れて居らん。」 「あっそう。じゃあ、もういいよね。この地を滅ぼしちゃいまーす。」 そう言って全能神は両腕を空に向けた。賢者のわたしだから分かる。膨大な魔力と何かが急速に集まっていた。なにかとてつもなく大きな攻撃が来る。止める為に攻撃するのか、避ける為に退避するのか悩んでいた時、彼女は現れた。 「ふー。間に合った間に合った。」 「はぁ……。散々起こしたのじゃが、起きぬお主が悪いのじゃからな…。」 ミトラと全能神が対峙するその中心に現れたのは、黒く艶のある長髪に尖った黒い耳が二つ。九つの黒いフサフサした尻尾が、ゆらゆらと動き、刀を手にした美少女は言った。 「こら、ネイ。何やってるの。」
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