VS全能神2

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VS全能神2

▽狐姫 ユウ・アトライト 「ユウジが魔剣なら、あたしは聖剣かな!」 左手を前に出して逆手にするネイ。ネイはわたしと知り合ってからというもの、わたしの居た世界にすごい興味を持ち始めた。自分のスキルでわたしの居た世界を覗き見てるらしい。見てるものはかなり偏っているみたいだけど…。 「どれにしようかなっ!かみさまのいうとおりっ!うん、これに決めた!……来て!不滅剣(デュランダル)!!」 ネイの手に強烈な光が発生した。あれは聖剣の光。相反する存在には触れただけで有害となる強力な光なんだけどそれもすぐに納まった。光の無くなったネイの左手には、装飾の少ない銀色のロングソード。刀身には読めない文字がいくつも刻まれていて、淡い光を放っていた。 ……いろいろ言いたい事はたくさんある。まず、聖剣出す為にいったい何個のスキルを使用してるんだか…。聖剣を召喚する為に絶対必要なスキル聖剣召喚(サンクティグラディオ)、聖剣の選択する事のできるスキルに聖剣との契約破棄のスキル、異世界の聖剣を権限させるスキル……、上げていたらキリがない。全能神のネイだからできる、使いたい聖剣を選んで適性も契約も無視して望むがままに最高のパフォーマンスを発揮させる。こんなこと、現役の大勇者エイジでもできない。 こだわりだけで非常識なことをするネイだけど、その拘りが強さに直結してるんだよね。一部始終を黙って見ていたわたしを、ネイが見る。その顔はほんとに楽しそうで、無邪気だ。そんな顔が小さな子供のいたずらっ子のようにニヤリと笑った。 「いくよ!ユウジ!」 「うん、わかった。……ミトラ、勇者パーティと騎士団であっちの男の子やってて。ユニアスはたぶんなんとかなると思う。ネイはわたしが相手する。」 迫るネイを横目に、ミトラに簡単にお願いしておく。ミトラの力はノルドと相性がいい。それならミトラに任せて、勇者パーティや騎士達を援護に付けて確実に一柱を相手して欲しかった。 前方から迫っていたはずのネイが居ない。それを確認した時には、背後から不滅剣(デュランダル)が振り下ろされていた。わたしは(トーカ)で受け流す。そしてそのまま反撃に移ろうと突きを放つも既にそこにネイは居ない。今度は上から強烈なプレッシャー。 「緋牙刃(ひがじん)!!」 ネイは少し距離を開けた場所から、不滅剣(デュランダル)を振り下ろした。斬撃が飛ぶ。紅色をした斬撃は三発。それに対しわたしは継承されてきた(トーカ)の刀術を使う。 「我流三式、空断ち(そらだち)」 横一線に刃を通らせれば、三発の斬撃は抉り取られたように、歪んで消えていった。それを確認することも無く、わたしは踏み込んでネイの元へと飛翔する。 次の技でも繰り出そうとしていたんだろうけど、わたしは一気に距離を詰めて刀を振るう。ネイは左手だけで不滅剣(デュランダル)を振ってわたしの刀を受け止めた。そのまま弾き返そうと力を込めてきたのが分かったけど、そうはさせない。わたしも力を込める。 「うっそ。まじ?ユウジ、そんなに力強かったっけ?」 「だから言ったじゃん。前に会った時より多少は強くなったよって。」 前回会ったのは、わたしがこの身体に作り変えられてすぐだった。トーカが気絶したわたしの回復の為に神界のネイの元へと運んだらしい。当然、その頃はこの身体に馴染むわけもなく人族とは違う圧倒的な身体能力に振り回されただけとなってしまった。けど、今は違う。この身体にも慣れてきて、身体能力はもちろん九尾の狐という特殊体質にも適応し始めてる。 「そっか!にひひ、じゃあもっと楽しめそうだねっ!ライトニング!」 ほんとにネイは楽しそうに笑う。鍔迫り合いが不利と察したネイは、雷の中魔法を使ってきた。雷魔法は速さと威力が高い。まして、術者がネイだ。並の雷魔法の比じゃないのは明らかだった。無視するわけにもいかない雷魔法をわたしは刀で斬る。その隙にネイは遥か先に距離をとっていた。 「……ほんと転移スキルって便利だね。」 「ふふんっ!あたしの十八番(おはこ)だからね!これがあれば好きなとこにすぐに行ける!」 前に、ネイに聞いたことがある。その転移スキルがあれば、わたしは元の世界に帰れるんじゃないかって。答えはあっけなく『あたしがやってあげるなら余裕っしょ』だった。まぁ、『でも、ユウジには使ってあげないけどね』と言われて元の世界へ帰る方法は一つ無くなったんだけど。 今となっては、元の世界への帰還は考えてない。一番の理由はこの身体だった。どこからどう見ても人外。変化(へんげ)の術を使ったとしても、生活するのに苦になるのは目に見えてる。それに、いくら姿形をいじったところで身体能力はそのままだ。普通の生活が送れるとは思えなかった。 「よし!久々の身体強化系のスキルも掛け終わったよ!これで思う存分戦えるね!」 まだ、身体能力が上がるのか。正直にそう思った。まぁ、わたしも身体強化は身体の限界までは底無しにできるんだけどね。トーカのおかげで。ネイがどれだけ身体強化ができるのかわからないけど、神体であるネイには身体の限界なんてないだろうから掛けられるだけ掛けられる。ちょっと羨ましい。 「ほどほどにね。」 「やだよーっだ!久しぶりの全力だもん!楽しまなきゃ!」 そう言って、ネイは踏み込んだ。さっきまでとは比べ物にならない。何倍にも速いそれは転移スキルを使っているように見えるほどだ。わたしが迎え撃とうと刀を握り直した所で、わたしは動きを止めた。 「……勝手にわたしのユウと遊ばないでください。」 「ぐっ!」 目の前に金色に輝く槍を持ったユニアスが現れたからだ。ユニアスはネイの斬撃を軽々と捌くと槍の切っ先をネイの眼前に合わせた。 そのままユニアスはわたしへと顔を向けて、まるで天使のように微笑んだ。 「ユウ。お久しぶりです。酷いですよ?わたしへの挨拶より他の女性と戦うなんて。」 「……ユニアス、久しぶり。あれ、ユニアスの所に人行かなかった?金髪の優しそうな男の子。」 「あぁ、何か来た覚えもありますが…。あまり覚えていません。ユウとこの女性の間にいつ入ろうかと見入っていましたので。」 ユニアスの言うことを何となく想像したわたしは、ユニアスの元へと行った金髪の男の子が可哀想になったので、その男の子が居る方向を見た。 案の定、その金髪蒼眼の男の子は困った顔をしてわたし達の方へと飛んで来ていた。 「ごめん、ユウ。速神様に全然相手してもらえなかったよ。」 「大丈夫だよ。エミール君、ありがとね。」 エミール君、ずっと疑っていたんだけど結構な実力者だった。冒険者としてはシルバー冒険者なんだけど、それはギルド側との信頼度の問題でエミール君の本当の居場所は戦場。それも傭兵だった。《英雄王》エミール・ドラリオ。その二つ名がつくほどの実力者で戦場では知らない人は居ないらしい。わたしは戦場にはあまり出ないから知らなかったけど。 「ユウ。誰と話しているのですか?わたしはここに居ます。今はわたしと話しているではないですか。わたしを見てください。」 エミール君の方を向いていたわたしの顔を掴んで、ユニアスは自分の方へと向けた。ちょっと首痛かった。力強い。 そうそう、ユニアスも皆にはアッシェって呼ばれているらしいね。皆がそう呼ぶならわたしもアッシェって呼んだ方がいいのかな?ネイの時はトーカがダメって言ってたけど、ユニアスの事は言ってなかった。それって事はアッシェの方がいいのかな?わからないし、呼んでみよう。 「ねぇ、ユニアスって皆からアッシェって呼ばれてるんでしょ?わたしもアッシェって呼んだ方がいいの?」 途端に温度が下がった気がした。けど、ユニアスは相変わらず天使のような笑顔だし…。でも、なぜかちょっと怖いかも…? 「ユウ?二度とわたしの事をアッシェと呼ばないでください。いいですね?」 「あ、ダメなんだ。わかった。」 どうやらダメらしい。あれかな、人間で言う苗字と名前的な事なのかな?今まで名前で呼んでたのに、苗字で呼ぶのに変えていい?みたいな。それなら嫌かもしれない。 そんなやり取りをしていると、ユニアスに槍であしらわれていたネイが見るからに怒っていた。神だけが使えるエネルギー、神気まで纏ってらっしゃる。さっきまでのじゃれていた感じとは全然違う。 「アッシェ。どういうつもり?ユウジはあたしの相手をしていたんだけど?なに邪魔しちゃってくれてんの?それに何その顔。ユウジに媚でも売ってるわけ?」 ずっとわたしを見て、手も顔を離さなかったユニアスがため息と共に顔だけネイに向けた。すんごい無表情。そんな顔するんだユニアス。 「はぁ…。あなたこそ邪魔ですよ。消えてください。わたしのユウです。他人のものを取るものじゃないですよ。」 いつの間にか、わたしはユニアスのものだったらしい。いったいいつからなんだろ?今? 「は?今なんつった速神。誰が誰のものだって?」 「聞こえませんでしたか。無駄に歳を取るものじゃないですよ全能神。ユウはわたしのものだと言ったんです。」 「あっそ。ほんとに邪魔ねあんた。いいよ、この場で殺してあげる。」 なんか不味いことになってる。全能神と速神が戦いそうなんだけど…。困ったわたしはエミール君を見た。エミール君はいつものように苦笑しているだけ。 え、これわたしが止めるの…? わたしの気分は他所に、二柱の神は武器を振りかざした。
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