シルバー冒険者エミール・ドラリオ

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シルバー冒険者エミール・ドラリオ

エミール・ドラリオと名乗った男は、金髪蒼眼で容姿もうん、イケメンだと思う。まだ幼さの残る顔立ちからは、わたしとそう変わらない年だと思うのだけど、それでいてシルバー冒険者を名乗れるのはなかなかの実力者なんだと思う。 冒険者には格付けとして、実績に応じてランクを指し示すタグが渡される。初心者には白いタグのホワイト冒険者、そこから簡単な依頼と簡単な試験を行い、ギルドから信用を得られれば銅色のタグが手渡されブロンズ冒険者と名乗ることができる。ブロンズ冒険者は脱初心者とも言われていて、晴れて一人前の冒険者と認められることとなる。 ブロンズ冒険者となった冒険者は、そこから様々な経験を積むことになる。依頼の難易度もホワイト冒険者の時とは比べものにならないほど上がる。中型魔獣や集団魔獣の討伐依頼から、護衛依頼、そしてギルドの要請時に応じる義務が発生する。もちろんホワイト冒険者から脱却し、一人前の冒険者となれたからと言ってそう簡単にブロンズの依頼をこなせるようになるわけじゃない。ブロンズになってもホワイトが受けるような採取や雑用依頼を受ける冒険者もいる。ならブロンズの依頼をどうこなして行くか。それは冒険者同士でパーティやクランを組む事で、依頼自体の難易度を下げていくのだ。そうやって、様々な経験を経て実績を積むと、ギルド側から昇格試験の薦めを貰う事ができる。この薦めを貰うことができて、尚且つ昇格試験を突破できた者にのみ銀色のタグが渡される。これが、シルバー冒険者なのだ。 ここまで説明すればわかると思うのだけど、シルバー冒険者を名乗れると言うことは、実績も実力も兼ね備えた本物の上級冒険者ということになる。まぁ、シルバー冒険者の上にも金色のタグを持つゴールド冒険者や白金色のタグを持ったプラチナ冒険者なんてのも居るけど、これは今説明しなくてもいいと思う。目の前に居るエミール・ドラリオはシルバー冒険者なのだから。 さて、長くなってしまったけどこのエミール・ドラリオはなんと言ったっけ? 「パーティ?」 そうだった。彼はわたしにパーティを組んでほしいと言ってきたんだった。 「あ、あぁ!そう!パーティだよ!僕とパーティを組んでくれないかな?え、えーと…」 あぁ、そうだった。あまりにも突然だったから名乗りもせず疑問だけが前面に出てしまってた。少し反省しつつわたしは名を名乗る。 「あー。わたしはユウ。ユウ・アトライト。ユウでいいよ。」 わたしが名乗ると、エミールはまるでパァーって効果音が聞こえてきそうなほど、満面の笑みに変わった。え?なに、人の名前がわかるとそんなに嬉しいものなの? とはいえ、ユウ・アトライトと言う名前はこちらに来てトーカに付けてもらった名前だ。ユウはわたしの元の名前から抜き取って、アトライトはトーカ・アトライトからもらって付けてもらった。あの時のトーカの狂喜乱舞は忘れない…。落ち着かせるのが大変だった。 「ユウ。ユウか!それで、どうかな?パーティの件。組んでもらえないかな?」 わたしがトーカの狂喜乱舞した様子を思い出してゲンナリして居ると、エミール・ドラリオから再度、パーティの件を聞かれてしまった。てか、やめて…。わたしの名前連呼するの…。なんか恥ずかしいから…。 「んーー。いろいろと話しが見えてこないんだけど…。まぁ、いいや。その辺の話しもいろいろ聞いてから考えたいし、これからギルドに行く所だったからそこで話そ?」 「っ!あ、あぁ!そうだね!理由も事情も話して居ないのに、ユウも困ってしまうよね!うん!ギルドに行って話そう!」 このエミール・ドラ…あぁ、面倒だからもうエミールでいいや。エミールは、感情が表に出やすいんだろうか?喜んだり困ったり慌てたり、忙しい人だね。…素直なことはいい事だけど、騙されやすそう。そんなことを考えながら、わたしとエミールは冒険者ギルドへと足を運んだ。 冒険者ギルドの両開きの扉を開けて、ギルドへ入ると何故か様々な視線に晒された。え、なに。こわい。 「お、おい見ろよ。あのいつも一人の狐っ娘が男連れて来たぞ。」 「うお、ほんとだぜ。たまにすんげぇ美女と一緒に居るけど、男は初めてだな。くっそ、あの隣の男が羨ましいぜ。」 「いいじゃない別に。見るからに年頃の女の子なんだし男連れて来ることくらいあるわよ。わたしなんてあの子ぐらいの時なんか…」 「いや、別にお前の過去とか聞いてない。」 「なによ!男ってば皆若い子ばっかり見て!バカみたい!」 「まぁ、落ち着けって。でも、実際関係性ってどうなんだろうな」 「さぁな、どういう関係性にしろ荒れるだろうぜ。あの狐っ娘のファン達、相当おっかねぇらしいからな。」 あのー。聞こえてますよー。なんて事は思ったけど、言わない。ギルドの中の造りは簡素なものだ。扉から入って左手には二階に上がる階段。その横の壁一面に依頼書が所狭しと貼られている。通称依頼掲示板。そして、入口正面は建物の空間の三分の一ほどを使ってカウンターで仕切り、受付嬢が四人程待機している。そして入口右側は拡張された空間になっていて、そこには酒場が作られている。冒険者は稼いだ日銭でここで飲み食いしたり、待ち合わせや情報交換の場として利用している。今の話し声もその、酒場に居た冒険者達の言葉だ。 どこか居心地の悪さを感じつつも、わたしはエミールを連れて受付カウンターの左端を定位置としている受付嬢の元へと向かう。他の受付嬢は背筋を伸ばして営業スマイルを顔面に貼り付けたロボットのように待機しているのに、彼女だけはわたしとエミールが入ってきてから終始、カウンターに肘を付き頬杖をしていて、いかにもやる気の無さそうな態度でこちらの様子を窺っていた。 「ユウ。珍しいじゃない男なんか連れて。それで?誰よ。その男は。」 いや、誰よって…。あなた仮にもギルドの職員で受付嬢やってるんだから、ある程度は冒険者の顔くらい把握しておきなさいよ…。と心の中で思うものの、彼女の不機嫌そうな態度から言えずに苦笑するしかない。 「おはようフィーナ。この人はエミール・ドラリオ。シルバー冒険者で、ここに来る途中で話しかけられた。」 ふぅぅぅん。といつの間にか頬杖を止めて腕を組み、結構な鋭さでエミールを睨みつけるフィーナ。あなた、エルフで造形美とも言える綺麗な顔でも、目元は切れ長だからなかなかに凄みあるよ。と思いつつも言わない。フィーナ怒ると恐いし。 横目でチラリとエミールを見てみると、案の定気圧されてて、慌てている。ほんとに分かりやすくて素直だよねエミール君。 「あ、あ、し、シルバー冒険者のエミール・ドラリオです!この度は、こちらのユウ…ひっ!ユウさんとパーティを組みたいと思って、声をかけさせて頂きました!」 途中、フィーナのユウだぁ?って言葉に完全に縮み上がったエミールだったけど、なんとか最後まで言えたようだ。うん、よく頑張った。 それにしても、なんでフィーナはそんな娘を貰いに来た彼氏に威圧するお父さんみたいな感じなの?エミールもエミールで、そのお父さんに負けないように覚悟を持って接する彼氏みたいなの? 「パーティだぁ!?エミールって言ったね!わたしのユウになにするつもり!?」 すんごい剣幕でエミールに怒鳴りながら、フィーナはカウンターから身を乗り出してわたしを抱き締める。 えぇ…なにごとなの…。それとフィーナ、いつも思ってたけど、なかなか胸あるよね。見た目そんな風に見えないからびっくりする。それより、息できないよこれ。あれ…やばい…。 「ち、違うんです!い、依頼が!依頼をするのにどうしてもパーティでないといけなくて!いつも武器を持たないユウさんを見ていて、優秀な魔法使いだと思って是非ともと、一時的なパーティをお願いしようかと…」 エミールは慌て、誤解を解くように口調を早め一気に言った。わたしは魔法使いに見えるらしい。そして依頼の為に一時的なパーティを組みたいらしい。フィーナに抱かれ意識が朦朧とする中でも、必要な情報だけはきちんと頭に入れる。 「依頼ぃ?一時的なパーティぃ?そんなモノ他に頼めば良いでしょ!?なにもわたしのユウじゃなくてもいいはずだわ!一体なにが目的よ!」 感情的になったフィーナは止まらない。普段ならこう感情的になる事はない。むしろかったるいといった感じに、適当で冷静に淡々としている。フィーナが感情的になるのは、必ずと言っていいほど、わたしが絡んだ時だ。 「そ、それは…!」 「先から、煩い上に不愉快じゃのぉ。わたしのわたしの叫びおってからに。ユウは儂のもんじゃ、エルフのはなたれなぞが触れていいもんでもないわい。」 この混沌とした状況に、一番厄介な人物が来てしまった。 「とーか……」 わたしは薄れゆく意識の中、小さくそう呟いた。
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