神と固有能力

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神と固有能力

ネイは十八番(おはこ)と言っていた転移スキルを多様して、縦横無尽にユニアスに斬りかかっていた。 「よいしょお!…むっ。ならこっちぃ!」 「……そんなものですか。」 対するユニアスは、白銀の槍を巧みに操って、時には逸らし、時には回転させて弾き、時には受け止めると同時に反撃にまで出ていた。 え、待って。ユニアスってあんな強かったの?わたし初めて戦ってるとこみたけど、速神って言うから速いだけなのかと思ってた…。今のネイって、わたしと打ち合ってた時より強化盛り盛りだし結構本気だよね…?転移スキルとか認識阻害スキルとか、先読みスキルっぽいのも使ってるし…。でも、ユニアス結構涼し気な顔で余裕そうなんだけど…。 「ねぇ、エミール君。」 「な、なにかな?」 「あれ放っておいてもいいかな…?」 「う、うーん…。今はまだいいかもだけど白熱したら不味いんじゃないかな、とは思うよ。」 エミール君の言ってることは尤もだとわたしも思う。怒りながらも戦いが好きなネイは、どこか楽しんでる雰囲気あるし、ユニアスに関しては面倒そうにしながらも口ではネイを煽ってるし…。これじゃ、終わりが見えてくるどころかますます激しくなるのは目に見えてる。 でもなぁ…。あれを止める為に入るのはめんどくさいんだよね…。正直、なんとかできるとは思うよ。さっきネイと打ち合って分かったけど、前に戦った時よりだいぶ違った。お互い本気じゃなかったとはいえ、隙を見い出せていたから。 てか、それよりもだよ。そう言えば、昨日エミール君に今回の騒動に関わる事について話をした時に、参加させて欲しいって言い出してなんかいろいろカミングアウトしてくれたんだけど皆は理解してたから聞くに聞けなくて話しそびれちゃったんだよね。 そもそも、《英雄王》ってなんなの?って所から説明欲しいんだけど…。まぁ、説明なくても神と戦えるくらい力があるならエミール君に目の前のネイとユニアスの戦いを止めてほしい。 そう思って、わたしはエミール君に再度話しかけた。 「ねぇ、エミール君アレ止めて来てよ。」 「僕がかい?うーん…。これは僕が止めに入るより、ユウが止めに入った方が止まると思うんだよね…。僕が入ったら余計にややこしくなりそうっていうか…。」 なんでエミール君が止めに入るとややこしくなるの…?ネイとユニアスの戦いはわたしが事の発端なのは、会話からなんとなくわかった。だから、当事者のわたしより第三者のエミール君が入った方がいいと思ったんだけど……なにか違った…? 「どうしてもって言うなら止めに入るけど……間違いなく二人は僕を攻撃してくるだろうから、助けて欲しいし結局ユウには戦いに参加してもらわないといけないと思うけど……どうする?」 「え、そうなの?なんかこう平和的にお話しで解決的なことになると思ったんだけど…?結局わたしが入るなら意味なくない…?」 「僕だって平和的な解決ができるならそうしたいけど、そうはいかないと思うかなぁ…。」 えぇ……。それじゃあ駄目じゃん……。なんでかトーカは黙ってるし…。ネイとユニアスは近接戦じゃ決め手にならないからなのか、魔法合戦始めてるし…。 はぁ…。めんどくさいけど止めに入ろう…。そう決めたわたしは、妖力で空中に作っていた足場を蹴って向かう。あ、他の人?神は神気で浮くことができるしエミール君は風魔法で飛んでるらしい。魔法とか神気って便利だよね。わたしも空を飛んでみたい。 「むっ。これも防いじゃうかぁ…。ならもう遠慮なんていらないよね!…展開!並列操作からの複製(コピー)!……そして極めつけはっと!」 雷魔法のライトニング。ネイが得意とする魔法で牽制に使い易いらしいその魔法はユニアスが槍を横一線するだけで掻き消されてしまった。それを見たネイは速度と奇襲を活かした雷魔法では決定打にならないって判断したみたい。 ネイは全能神の名に恥じないほど、スキルを多様した。詠唱や名称をスキルで破棄して魔法陣をスキルで空中に転写すると、これまた並列操作のスキルでもう一つ同じ魔法陣を転写した。ここまでなら、魔法を扱う者でも熟練者なら再現は可能だったかもしれない。けど、さすが全能神。ここから更に凶悪な魔法へと変えていく。 空中に転写された魔法陣は二つ。それをネイは複製(コピー)のスキルで倍に増やした。一人の術者が同時に四つもの魔法陣を扱うのは、不可能なんだよね。いろいろ問題点はあるけど生物的な面で言えば、魔法陣を扱うには膨大な情報量と的確な魔力量の調整、更に継続的に魔力供給の維持と集中力。一つの魔法陣を扱うのにこれだけの事をしなきゃいけない。それを四つも扱うとなれば、処理しきれなくて脳の負担が大きすぎることが原因で死に至ったりする。けど、ネイはこのくらいじゃ止まらなかった。 「《繰り返される事象(ループ・オブ・レス)》」 ネイの単純かつ強力な固有能力(ユニークスキル)。《繰り返される事象(ループ・オブ・レス)》は発動者の定めた事柄を固定して繰り返す能力。 ネイは魔法陣の精製から転写、複製までを固定したらしい。四つだった魔法陣が瞬く間に八つ…十二……四十四………百二十……。空中を所狭しと魔法陣で埋めつくして、やがて止まった。いや、止めた。 「こんなもんかな。覚悟しなよアッシェ。あたしからユウジを奪うなんて許されないんだよ?……消えて。」 数え切れないほどの魔法陣から放たれた魔法は赤一色だった。炎の槍だと思う。一つの魔法陣から二、三発。その全てがユニアスへと向かって放たれて、対するユニアスは感情を見せない顔で一言呟いた。 「《大気の障壁(エアリアル・オウビス)》」 これは…わたしは知らない。けど、固有能力(ユニークスキル)なんじゃないかな。でも、特になにかが起きた感じはしない。わたしはまずいと思いながら、二人の元へと急いだ。 「ユウジ!?ちょっとまたぁ!?ダメだって!これはさすがにまずいってぇ!」 二人の間に到着してすぐ、ネイにそう言われたけど、構っている暇なんてなかった。 「吸収(アブソーブ)!」 『トーカ!秒間千で!』 『無茶じゃ!じゃが、そうもいっておれんの…。仕方ない…。』 トーカの心配そうな声にも返事をしている時間はなかった。目前に迫る炎の槍を刀で弾く。息付く間もなく次、次、次次次次次次。 最高の身体強化状態でも処理しきれないものは、わたしの固有能力(ユニークスキル)吸収(アブソーブ)が吸収してくれてなんとか凌いでいる。それでも、終わらない。 斬る斬る斬る斬る!斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬! ――――どれだけ斬ったんだろう…。最初ほど、魔法の勢いは無くなってきては居るものの魔法の嵐はまだ終わらない。 ちょっと身体しんどいかも…。秒間千はさすがに堪えるなぁ……。吸収もそろそろ許容量を越えそう……。あ、やば。意識が――― 「ユウジ!?」 「ユウ。もう大丈夫ですよ。ありがとうございます。」 朦朧とする意識の中、悲痛に叫んだネイとわたしに背を向けて正面に立つユニアスの姿が見えた。 ユニアスの正面で魔法が何かにぶつかって消滅する光景を最後にわたしの意識は途切れた。
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