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激突!受付嬢と影と武神VS時神
▽困惑の賢者 マイ・カンザキ
先陣を切ったのは、フィーナ・ウールヴだった。
「ユウは連れていかせないわよッ!」
ただの冒険者ギルドの受付嬢だと思っていたけど、そんなことはなかった。全身に雷を纏って、右手には炎でできた剣、左手に氷でできた槍を持って目で追えない速さで時神に接近していた。
詠唱も名称も聞こえなかった。エルフは精霊に愛されていて魔法が得意と聞くけど、それでもあんなに自然に魔法を使うなんて…。戦場でエルフを見たことはある。でも、わたしが見たエルフなんて、同じ魔法でも威力や精度が高いだけだったはず。それもわたし達勇者パーティには及ばない程度の魔法。
「へぇ?今のを防ぐんだ。見えてないはずだよね?」
「見えない攻撃なんてどうって事ないわよ。精霊が全てを教えてくれるもの。」
フィーナ・ウールヴは接近しようと、瞬間移動にも見える動きで時神に迫っていたけど、見えない攻撃を受けているようで一定の距離から先へは近付けないでいるようだった。炎の剣と氷の槍で防いでいて、魔法が破壊されればすぐに構築し直している。両手で対処しながらも、攻撃の手数が多いのか風の刃や水の弾などの魔法が仕切りに放たれては消えていく。魔法の生成速度が異常だった。
「ちょっとッ!見てないで手伝いなさいよッ!これじゃ、時間がかかり過ぎるわ!」
「仕方ねぇなぁ。たまにはおじさん頑張るかね。」
そう言ったのは、ユウジの知り合いらしい強面の男。一番やる気が無さそうだったのに、名乗り出たのはなんか意外だった。
強面のおじさんは、ボロボロの剣を片手に持つと地面を思い切り蹴って飛んだ。そのままフィーナ・ウールヴが攻防を続けている横を通り抜けると一直線に時神の元へと斬りかかった。
「おらよっとッ!」
「ッ!あっぶないなぁ。」
「チッ!当たってくれれや楽だったのによ。」
叩き付けたような剣は、時神のすんでのところで止められた。強面のおじさんは、そのまま重力に逆らう事もなく地面に降り立つと、剣を肩に乗せて時神を睨み付けている。
それにしても、あのおじさん。魔力を使った感じがしなかった。いったいどうやってあんな身体能力を発揮してるんだろう?それこそ、あのおじさんも人じゃないのかな。見た目はどこにでも居そうなおじさんなんだけど…。
「そう簡単に当たってあげるわけないでしょ?てか、君もなんな訳?さっきから攻撃してるんだけど、全部弾いちゃってるじゃん。」
「ヤワな攻撃じゃ、おじさんには届かねぇよ。」
佇んで時神を睨んでいるだけのように見えるけど、どうやら時神から攻撃を受けていたらしい。よく見れば、おじさんの周りで何かが弾けているような感じがする。時神の不可視の攻撃も恐ろしいけど、あのおじさんも得体が知れなくて恐ろしい。
「もうッ!全然近付けないじゃないッ!」
空中では相変わらずフィーナ・ウールヴが、時神の不可視の攻撃と激しい魔法戦を繰り広げていた。フィーナ・ウールヴの魔法は多彩で同時に幾つもの魔法を扱う。……まるで、元の世界の打上花火のような…。見る者を惹き付けて離さないように、赤、青、黄、緑が入り混じる。
ユウジの関係者の他を見れば、聖女と言われていた女の子は後方に下がって支援魔法や回復魔法の準備にかかっていた。
赤髪の綺麗な女の人は、腕を組んでじっと戦いの行く末を見ていた。猫の獣人ぽい人とシルクハットの男は姿が見えない。どこかで奇襲の為に潜んで居るのかも知れない。
「いい加減諦めたらどう?同じ事ばかりでつまらないよ!」
「煩いわね!くっ…せめて攻撃の正体さえわかればッ…。」
フィーナ・ウールヴは苦戦していた。多くの魔力を持ち、精霊に愛されていたとしても魔力は有限。いつか必ず底をつく。ミトラは目を瞑り何かに集中している。勇者パーティを見ても、エイジは引き攣った笑みを浮かべているだけ、いつもは戦いに積極的なツヨシも冷や汗を流して戦いを見ている。カンナ先輩は悔しそうに武器である刀を握り締め、戦いに向かないナナミは怯えている。そしてわたしも動けないでいた…。無力だった。レベルの違い過ぎる戦いに、わたし達はついていけない。
謎の力で攻めるおじさんとフィーナ・ウールヴの奮戦も膠着状態になっている時、ミトラが目を開けた。
「我が術はここに成った。」
「ッ!ミトラ!何をした!」
「あら?攻撃が止んだわね。ギベット!畳み掛けるわよ!」
「へいへい。どうしてこう、ユウの周りの女は人使いが荒いかねぇ。」
ミトラが何かしたのか、突然焦り出す時神。対峙していたフィーナ・ウールヴは攻撃が止まったらしく、魔法で遠距離から時神に攻め始めた。おじさんはやる気のない言葉とは裏腹に、魔力ではない膨大な力を纏って再度空中にいる時神へと飛んだ。
「クッソ!戻れよ戻れ、時は刻まれ在りし時の流れよ戻れ!逆行!」
「ッ!厄介ねッ!」
迎撃に使っていた魔法を阻むものはなく、多数の魔法が時神に迫るものの、時神の時間魔法と思われる魔法によって、次々と消滅していく。
そんな中、無色なものの周りの空気が歪んで見えるほど強烈な何かを身に纏いながらボロボロの剣を振りかぶって近づく存在がいた。
「ウオオオオオオオオオッ!」
「チッ!逆行!!」
雄叫びを上げながら急接近するおじさんに、時神はフィーナ・ウールヴの魔法にしたように何かの魔法を当てた。
バヂィィィンッ!!!!
けど、大きな音と共に時神の放った魔法は打ち消されたのが分かった。そのまま、勢いは衰えずおじさんは時神に肉薄してボロボロの剣を振り下ろした。
「僕の魔法を弾くなんてッ!クッソォ!進行!」
「甘ぇよッ!」
斬られる寸前、時神は何かの魔法で動きが速くなって後方に下がろうとするものの、おじさんはその動きを捉えていたらしい。
ザシュッ!
おじさんの一太刀は、見事に時神の脇腹を斬るも致命傷には至らない。
「チッ!また届かねぇ!」
「ガハッ!」
傷口を手で抑えて苦しげにするものの、距離を開けた事からの油断だろうか。
息つく間もなく、次の攻撃が時神を襲った。
「好機!」
ミトラが一瞬で時神との距離を詰めた。そのまま手斧を振り下ろす。
「……上手く避けたか。」
「ミトラぁぁ…!!良くも僕の腕をッ!」
時神はまたしても動きの速くなった体で、咄嗟に半身を避けた。幸いにも時神が左腕を落とされるだけに終わった。
「つぅ……!!痛いじゃないかッ!」
そう言いつつも、抑えていた脇腹は元に戻りつつあって、肩を抑えている左腕も再生を始めていた。
「クッソ……!クソクソクソッ!なんなんだよッ!こんなの予定になかったじゃないかッ!………いいさ。もう僕も怒ったよ!不確定要素は即刻排除するに限るよね。怒らせたこと、後悔させてやるッ!」
叫ぶ時神が、新しく魔法を唱えようとした時空一面が魔法陣で埋め尽くされた。
「な…に…アレ…?」
思わずそう呟いていた。異常すぎる量の魔法陣。どこから発生したのか原因を探ろうと辺りを見回すも、その原因はすぐにわかった。
莫大な魔力を放出して、今だに魔法陣を作製し続ける中心には全能神アールが居た。
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