久々のお仕事

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久々のお仕事

意識が戻ると、フィーナとトーカの言い争う声が聞こえてきた。どれほど気を失って居たのかはわからないけど、この二人では止める者が現れない限り止まることはないだろう。それどころかヒートアップして、さらなる惨状へとなり果てない。 頭の側頭部に柔らかい感触がする。きっとトーカがフィーナからわたしを奪い去り、介抱という名の名目の元、わたしに膝枕をしているに違いない。トーカの右手であろう感触はわたしの頭上を撫で続けている。 「ユウになにをしているのッ!わたしでも、ユウにそんな事をした事がないのにッ!代わりなさい狐!ユウにはお詫びをしなければならないのはわたしよ?その役目はわたしがする!」 「きゃんきゃんと煩いぞはなたれ。儂が主を介抱してなにが悪いのじゃ。そもそもこうなったのもお主のせいじゃろうて。主の身の危険になりそうな相手においそれと引き渡すわけがなかろうが。」 「言わせておけばッ!いいわ!今日という日こそ、ユウからあなたを引き剥がす!」 「ほう。言うではないか。そこそこ強さを持ってしても、結局は人の範疇。負ければ金輪際ユウに近付かないと言うなら遊んでやろう。」 もう少し、この柔らかい感触と心地いい雰囲気を味わって居たかったけど、そういう訳にもいかなそうになってきた。 わたしは目を開けた。最初に目に入って来たのは着物の帯だった。赤や金、紺や黒といった彩やかな中にも落ち着いた色のある上質な帯。顔を上げれば、次に目に入ったのはトーカの顔だ。非の打ち所などなく。どこか妖艶で男も女も虜にしてしまうような顔。その顔はわたしの顔を見て微笑んでいる。 反対に頭を動かすと、エミールが今にも泣き出しそうと言ったようにフィーナとトーカを交互に忙しなく見ていた。…エミール。男の子なんだから、泣きそうになっちゃダメでしょ。そこは。 そして更に視線を移せば、そこには般若。いや、フィーナが居た。全身から電気が迸り、時折パチッとかバチッとか聞こえてくる。相当お怒りのようで、わたしが目を覚ましたことに気づいていないし、今にもトーカに飛びかかりそうだった。 その惨状を目の当たりにしたわたしは、頭を抱えたくなるほど頭痛に襲われた気がした。そして、呆れ返ったわたしは一言。 「もう止めて。」 それだけで、今までの惨状が嘘のように消え去った。トーカは優しく微笑み正座をしていて、エミールは驚いたのかわたしを凝視し、フィーナはさっきまでが嘘のように全身の電気はなくなりわたしを見てニコニコしている。くそう、トーカもフィーナも可愛いじゃないか…。 「ふぅん。オークの巣の掃討とゴブリンの巣の掃討ねぇ。これだけでもシルバー依頼の中でも上位の依頼なのに、更に巣にはそれ等を統率するユニーク個体の可能性有りですって。これもう、ゴールドの依頼じゃない。誰かしら、こんな依頼シルバー依頼として処理したの。」 場を落ち着かせたわたし達は、やっとの思いで(主にわたしとエミール)依頼の詳細に入ることができた。さっきの言葉はフィーナである。 その詳細を聞きながらわたしは思う。 「ワケあり(・・・・)依頼じゃな。」 わたしの思ったことを察したのか、トーカがそう呟いた。この依頼書を見る限り、明らかに何かがあることは見て取れた。 依頼書の一番下の備考欄にはこう書かれてもいたのだ。 現地にて聖女、聖騎士を含む、聖教騎士団以下十二名と合流し依頼に当たって欲しい。と。 「これ、どこのギルドで受けたのかしら?」 「僕は、冒険者として各地を転々と渡り歩いて居たのですが、この依頼は合流場所でもあるクィート村で発行されていました。まだ発行されてから二日と経っていません。これはギルド側から写しをもらって一緒に参加してくれる人を探していました。」 クィート支部の独断発行ねぇ…とフィーナは考え込んでいる。 この依頼書とエミールの話しを聞く限り、そのクィート村で討伐対象のオークやゴブリンと言った魔獣からなんらかの被害に合って、巡礼中の聖教騎士団がギルドに掛け合った。そして、クィート支部の冒険者ギルドも事態の深刻性を考慮し聖教騎士団の実力も差し引いた上での緊急シルバー依頼として発行したのだろうと思う。 クィート支部の冒険者ギルドのことは詳しくは知らないけど、聖教騎士団の聖女なら間違いなくギルドに掛け合うだろうし、ギルドも相手が聖教騎士団ともなればそれなりの対応をしているはずだからだ。 「主よ。もう無駄かも知れぬが、儂は反対じゃぞ。そも、聖騎士と言わばあの男じゃろうて、それも主に害が有りそうな上に聖女ときておる。あの女はその性格からは想像も付かぬほど、勘は鋭いぞ。」 「うーん。たしかに聖騎士と言えば彼だし、わたしは苦手だけど。やっぱりバレるかな?」 「そうねぇ。今のユウからは微塵も過去のあなたに結び付けるのは難しいけど、わたしでも分かったのだから、あの聖女ともあれば気づかれてもおかしくないわね。」 上からトーカ、わたし、フィーナの会話だ。エミールはなんの事だかさっぱりと言った様子で会話の外で気まずそうにしている。けど、話しの流れから良くない方向なんじゃないかと察しているようで、落胆の表情も見え隠れしている。ほんと、表情に出やすいよねエミールって。 「んーー。でも、まぁきっとこのクィート村の人達は困ってるんでしょ?エミールも彼らを助けたくて、でもパーティを組んでもらえる人が居なくて困ってる。それにワケあり(・・・・)依頼ならわたしは受けるよ。」 「じゃ、じゃあ!」 「うん。一時的な臨時パーティだけど、よろしくね。エミール・ドラリオ君。」 わたしの出した答えにこの場の三人の反応は正に三者三様だった。トーカはこうなる事がわかって居たんだろう。渋々ながらもやれやれと目を瞑りわたしを後ろから抱き締める。ん?抱き締める必要ある?ま、まぁいいや。 エミールはまさか受けてもらえると思ってなかったのか、またもやパァーっと効果音が聞こえてきそうなほど、喜んでいる。…なんかこう…エミールは忠犬って感じがするのはなんでだろ…。 そして、問題なのがフィーナだ。明らかに反対と言った態度で、不機嫌極まりない。フィーナがこれ程までに不機嫌になる要素はあまり無い気もするけど、きっとわたしの事だから感情が表に出やすいんだろう。でも、彼女の同意がなければパーティを組むことも、依頼を受諾することも叶わない。なんとかならないものかな…。 「フィーナ。」 「嫌よ?ユウが参加することで、この依頼が達成されることにはなんの疑いもないわ。でも、問題はそこじゃないもの。わたしは反対よ。」 ダメだこりゃ。断固として反対と言った様子。どうしよ…。わたしはついついトーカを見てしまう。わたしの悪い癖だ。困ると自然とトーカを見てしまう癖がある。 トーカもトーカでわたしに見られることがわかってたかのように、わたしがトーカを見るとバッチリと目が合って微笑んでくる。なんでもお見通しですか。さすが一年三ヶ月、四六時中の付き合いって凄い。 「エルフのはなたれ。諦めよ。ユウの頑固は今に始まったことではあるまいて。ユウがこうと決めてしまったら、もう覆すのは難しいぞ。お主も、ユウを慕うのなら理解を示すのもまた然りと思うのじゃがの。」 トーカのその言葉は、何故かフィーナには効果抜群だったようで、フィーナは眉を顰めて唸り始めた。どうなるんだろうか。 「フィーナ。久々に依頼を受けるんだし、そろそろ受けないと会長にも怒られちゃう。だからお願い。ダメかな?」 「あぁ!もう!わかったわよ!」 フィーナは本当に仕方がないと言った様子で、不機嫌さを全面に出しつつもその代わり!と続けた。 「聖女には、どんなに勘づかれてもしらばっくれること!それと聖騎士はムカついたらちゃんとぶっ飛ばすこと!いい!?」 「う、うん。わかったよ。ありがとうフィーナ。」 そのあまりの必死さと剣幕に、頷くしかなかったわたし。そんなわたしの頭を撫でるトーカ。いつもの事だけど、ベッタリだよねトーカ。 とまぁ、そんな感じでわたしは依頼を受ける事となった。 久々のお仕事だ。頑張ろう。
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