人捜し

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人捜し

嵐の様な勇者パーティが立ち去ったあと、しばらく放心状態だったギルド内の冒険者達。もちろんわたしも同じだったのだけれど、酒場の店員さんがテーブルに飲み物を置いた事で、持ち直すことができた。こんな時でもお仕事ご苦労様です。 えぇっと、なにしてたんだっけか?あぁ、そうそう依頼のことについて、エミール君と話してたんだっけ。 目の前のエミール君を見れば、あちらも本来の目的を思い出したらしく姿勢を正していた。トーカ?トーカは左腕でわたしを抱き締めたまま、右手で瓶ごと宵桜って書いてあるお酒飲んでるよ。 「な、なんか凄かったね。ここは王都なんだし、勇者パーティが居るのも当たり前だよね。たしか彼らってプラチナ冒険者に匹敵するんだったけ?」 「そうらしいねぇ。実際にプラチナ冒険者と勇者達が競い合うなんて見たことないし、ただの噂って言う人も居るみたいだよ。」 実際、勇者達とプラチナ冒険者がぶつかったことは無い。勇者達はこの国の王であるミトラ直属のパーティで、ミトラの命令であれば、戦場だろうと駆り出される。対して、プラチナ冒険者はどこまでいっても冒険者だ。例えその力が一国を滅ぼせるほど強大でも、冒険者ギルドによってプラチナ冒険者と認められた者達は人格も去ることながら生粋の冒険者で、その力を虐殺や戦争なんかに使われることは無い。 そういったことに手を出す者は、冒険者ギルドに認められるわけもなく、そもそも別の道を進む。闇ギルドと呼ばれる違法行為をものともしないギルドに居たり、傭兵稼業に身を置く者だったりと様々だ。 「でも、各地では語り継がれてるよね。プラミール王国の七人の勇者の武勇って!あ、今は六人だったかな?」 「ううん、今は五人だよ。一人は消息不明でもう一人は戦死したって聞いた。」 もちろん消息不明なのは、ユウジ・トウジョウ。つまりわたしなんだけど、もう一人の戦死した勇者はわたしが消息不明になった次の戦場で、槍を得意とした勇者、イオリ・ホシノが犠牲となった。彼は内気な性格で戦いには元から向いて居なかった。仲間が消息不明となって恐怖に駆られたんだと思う。悲しい事だけど、事実なのだから受け止める他ない。 「そうだった!となると、残って居るのはさっきの大勇者のエイジ、賢者のマイ、烈火のツヨシ、召喚士のナナミそれと神速のカンナって事だよね!戦場では圧倒的だって聞いてるよ」 「勇者達には加護とスキルがあるから、きっとそれが大きな原因だと思う。」 わたしとエミール君が、たった今起きた出来事から話題の勇者の話しをしていると不意にトーカが口を開いた。 「主ら、今する話でもなかろうて。本来の目的と随分離れておるぞ?時間に余裕があるからと無駄に浪費することもあるまい。」 トーカを見れば、明らかに不機嫌だった。まぁ、この明らかってのはたぶんわたしじゃないと気づけないんだろうけど。それでも明らかに不機嫌だ。きっとわたしが勇者達の話をしたからだろう。 でも、トーカのおかげで本来の話へ戻ることができた。やっぱり、トーカは頼りになる。わたしの保護者的な存在としてありがたい。もっとも、前にトーカってわたしの保護者みたいだよねって言った時には、手が付けられないほど怒っていたけど。 その後、わたしとエミールは詳細を詰めて無事?に解散となって、各々準備をすることになった。 時間として、お昼過ぎ。エミールと解散した後、お昼を貰いに一度、安息の宿まで戻ったわたしはお昼を食べて、その足で商業地区へと向かった。 商業地区は、冒険者地区と大通りを挟んだ向かいの地区で主に商人達が暮らしている。普段から冒険者地区内で活動が完結してしまうわたしは、こういったお仕事がない限り立ち寄ることはあまりない。 商業地区には、服屋や食材を扱うお店の他にも宝石店といった趣向品を扱うお店、賭博や娼婦といった娯楽に関するお店が至る所で商売をしている。きっと、プラミール王国内で年中活気がある場所はこの商業地区だけだと思う。ちなみに、旅行客や旅人なんかは基本的にこの商業地区にある宿屋に泊まっている。冒険者地区の宿屋が民宿なら、商業地区の宿屋はビジネスホテルのような感じ。ちゃんとした高級ホテルみたいな宿屋は騎士団地区にあったりする。理由は騎士団本部が近くにあって治安がいいから。 そんな話は置いておいて、わたしがわざわざ商業地区にまで足を運んだのには理由がある。いや、理由もなくこんな所まで歩いて来るとかわたしには考えられない。 目的の場所が商業地区にあるからだった。わたしが唯一、常連として馴染みのあるお店。シューマジア魔道商店。ここに用事があるのだ。 「…………あれ?」 「ふむ、居らんの。」 木造でできた建物の扉を開いて中に入ると、心地のいいベルの音がチリンと鳴る。いつもならこの音を聞いてドタバタと奥の方から出てきてもいいんだけど…。トーカの言うように、居る気配がない。 「えぇ…。せっかくたくさん歩いたのに…。」 「何を言っておる…。盛りに盛ってもお主の言う十分程度だろうに…」 「いいじゃん。わたしとトーカの十分って結構だよ?普通とは違うんだし。…てか、トーカ盛るとか言うんだね…」 お主と話しておると移ってしまうのじゃ。とトーカは言う。む、気をつけては居るんだけど元の世界の言葉を使っちゃってるのか。まぁ、十六年間の馴染みある言葉は一年やそこらじゃ抜けきらないよね。 おっと、いけない。ついつい話が脱線しちゃう。基本適当であんまり物事に関心のないわたしはすぐに脱線してしまう。その辺もトーカが元に戻してくれたりするから、助かってる。ほんとにトーカ様々だ。 っていいながら、また脱線しているわたしって…。いい加減元に戻そう。そう、シューマジア魔道商店の店主が居ないのだ。お店の扉に鍵もかけずに離れるとか、不用心極まりないよね。さて、どうしようか…。 「……………。」 あれ?トーカがなんでか白い目でわたしを見てる。え?なんで? 「え、なに。どしたの。」 「………はぁ…。いやなに。お主のその無駄な力を使えば良かろうにと思ったまでじゃ。なにゆえ、そうどこか頓馬なのか知りたいものじゃの…。」 えぇ…。なんなの?なんでため息吐いたの。頓馬ってなに?意味は知らないけどきっと悪口だ。たぶん。でも、気にしないもんね。そうだよ。わたしが力を使って捜せば早いんだよ。うん。教えてくれてありがとうトーカ。 「解析(アナライズ)周囲探索形態(・モードエリアサーチ)」 トーカの言葉には心の中だけで応えて、無視してわたしのユニークスキルを行使する。目を閉じれば、頭の中に周囲の地形が浮かんでくる。最初は平面、上から地図を見下ろしたような図形。高低差はなくて、無差別に魔力量事に色分けされた点々が図に記されていく。 とりあえず範囲は商業地区内に絞って、魔力量も一定以下は除外。すると、どうだろう。先程まで点々でごちゃごちゃとしていた図形が一気に減り見やすくなる。次は、わたしの記憶を頼りにシューマジア魔道商店の店主の魔力量に近い人のみ色を黒くする。…ふむふむ。商業地区内に反応は三ヶ所。じゃあ、ここからさらに立体構造にして、三次元の図面にすると……。 一ヶ所は外っぽい。動き回ってる様だし、用事でもしてそう。コレは後回しでいいかな。次、二ヶ所目は…建物内一階だね。商業地区の端の方でちょっと遠いかなぁ。でも、あんまり動いてないし一応目星は付けておいた方が良さそう。さて、最後三ヶ所目は……え、向かいの建物じゃん。えっと…?二階だね。こっちも全然動いてない。とりあえず行くならコッチかな?近いし。 情報を整理し終えたわたしは目を開いて、力を解除する。これ結構、頭使うから疲れるんだよね。あんまり広い範囲やると知恵熱みたいになるし…。ちなみに、コレ使ってる時って、わたしの黒いお目目は黄色く光ってるらしいです。なんでかは謎。 「見えたのかえ?」 「ん?あぁ、うん。見えたよ。けど、本人かどうかはわかんない。めぼしいのは三ヶ所。近いとこ、怪しいとこから見ていこうと思うんだけど、着いてきてくれる?」 危ない危ない。トーカに声掛けてもらわなかったら、また一人で脱線するとこだった。 「もちろんじゃて。主のある所に儂はおる。」 その言葉に微笑みで返すも、わたしは思う。 その割に最近、一人で自由に動き回ってないですか?と。
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