魔道技師ゲルダン・シューマジア

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魔道技師ゲルダン・シューマジア

「えっと、浄化の魔道具は必要かなぁ。汚いの嫌だし。あと巣に入るって言ってたよね?それなら光源の魔道具もあった方がいいよね。松明でもいいけど、手が塞がるとめんどくさいし閉鎖空間になったら酸素勿体ないもんね。」 わたしは今回の依頼をする上で必要になりそうな魔道具をゲルダンに注文していた。そう、この為に来たんだよね。なんで、買い物しに来ただけなのにべードン商会と取引する事になって、二つ名が付いてたってことを知る事になったんだろ…。よし、全部ゲルダンのせいにしよう。うん。 「相変わらず、ユウは変な物を頼むんだな。そんなもの、だいたいの人間が使えるような魔法じゃないか。」 「うるさいなぁ。仕方ないじゃん。詠唱しても出ないんだもん。」 「お、おう。なんでそんなぷりぷりしてんだよ…。」 なんでかは良くわかってないんだけど、わたしには普通、使えてもいいような魔法が使えない。じゃあ、なにかに特化してるのかと言われても別にそういうわけじゃないし、属性魔法なんて詠唱してもうんともすんとも言わない。それで何度も恥ずかしい思いをしたものだ。いや、魔法を使う為の魔力はあるんだよ?でも、なんでか発動してくれないんだよね。 トーカが言うには特殊な性質なんじゃろって言われたけど、納得はしてない。いやねぇ?炎だしたり、水でバシャァってしたり、風でサクサクとか飛んでみたり、土で壁作ったりとかしてみたいじゃん?みんなできてるのにぃぃって歯がゆいんだよね。 あ、ぷりぷりしてるのはわたしの脳内会議でゲルダンに有罪判決が降ったからです。はい、ただの八つ当たりです。てか、ぷりぷりってなに…ぷりぷりって…。 「ふむ、燃焼系の魔道具も買っておいた方がいいじゃろ。ゲルダン、それも用意するのじゃ。」 「燃焼系?巣に入るから燃える系は避けてたんだけど、いるの?」 「…主よ。ゴブリンやオークの死骸をそのまま放置するのかえ?燃やしておかねば、腐敗し土地は穢れ、ろくな事にならんじゃろうて。」 あぁ、たしかに。全然考えてなかった。例え忘れてたままだとしても、他にも人が居るしやってくれるだろうけど、自分でやれるのに越したことはないもんね。さすがトーカ。頼りになる。 「なら、浄化と光源の魔道具と燃焼系なら火柱でいいだろう。この三種類だけでいいんだな?」 わたしは少し考えこむ。忘れてる物ないよね?依頼で起きそうなことを想定しつつ、所持している物で足りない物を見つけていく。 結局、わたしの中でその三種類だけあれば大丈夫と結論付けたけど、気になることが一つだけ。 「その三つでいいんだけど、使用量とかはどのくらいなの?それによっては何個か欲しいかな。」 「そうか。お前さんは緊急時の補助じゃなくて、この魔道具を主体にしているんだったな。ふむ…。」 うーん。と唸るゲルダン。たしかにわたしは、自分で発動できない分を他の道具とかに頼っている。それに、このゲルダンというエルフは変わった物を作る人だけど、腕はたしかなのだ。なにをそんなに考えてるんだろう? 「ユウ。お前に試作品をやろう。」 「試作品?」 「ゲルダン、生死を分かつ戦場に試作品を持っていけとはどういう事じゃ。」 補助的な役割として、魔道具を必要としてるわたしには正直、無くても大丈夫な魔道具ではある。でも、トーカの言い分はもっともで試作品では、実戦の中で頼れるとは思えないよね。不具合とかあっても困る。 「まぁ、待て。試作品で改良の余地があるのは間違いないが、それは俺の納得のいく性能に届いていないだけで動作は問題ない。…これだ。」 ゲルダンがわたしに差し出してきたのは、腕輪だった。銀色の腕輪には等間隔で丸い窪みがあった。窪みの数は六つ。 「これは…?」 「それは発動媒体だが、ただの媒体じゃない。俺は最近、魔法を記憶させておく魔石の小型化に成功してな。それをその丸い窪みにはめ込んで使用する。」 魔石とは魔力を含んだ石で、魔獣の核となっているものだ。魔石はただ魔力を含んでいるだけで、それだけでは魔法は使えない。魔法を魔石に刻み込み記憶させることで、使用者の魔力を使うことなく魔石の魔力によって魔法を発動させることができる。魔力の空になった魔石は粉々に砕けてしまうので、魔力の容量分の魔法を打つだけの消耗品だ。 「その腕輪にはめ込んだ魔石は、その役目を終えても砕かれない。そして、砕かれない魔石に使用者が腕輪を通して魔力の充填ができる。」 「お主、それが真なら魔道具会に革命が起きてしまうぞ。」 「なに、大したことじゃない。少しばかり魔石を小さくして使用できないかと思って弄っていたらなかなかに上手くいったからな。どう運用するか考えてたらできた、たまたまの作品だ。」 まぁ、まだ改良の余地はあるがな。とゲルダンは言ったけど、魔石は使い捨ての消耗品という常識を壊している。 「使わせてもらおうかな。いくらするの?」 「試作品だし値段なんて決めてない。ただそうだな…今回の研究費用を少し増やしてくれると助かる。」 わたしは特になんの問題もなくそれに了承した。わたしはこうやって生活費と研究費を提供して、ゲルダンにはいろいろと手助けしてもらってる。シューマジア魔道商店なんて開いてるけど、形だけで客足なんてほとんどない。本人が商売より研究優先なので、仕方ないけどそのおかげでわたしは偶にこういった便利な魔道具を提供してもらえる。 その後、ゲルダンに細かい注意事項を受けて、魔道具を受け取った。わたしとトーカはシューマジア魔道商店を後に、他の準備の為に、市場へと向かった。 なんだかんだ、べードン商会とのやり取りもあってもう夕方に近い。急がないとお店が閉まってしまう…。 「疲れたぁ…。」 なんとか必要な物を取り揃えて、安息の宿へたどり着いたのはすっかり夜になってからだった。 自室へと入るなり、ベッドに顔からダイブ。あー、このままぐっすり寝れそう。 「ユウよ。そのまま寝るのは良いが、しばらくプラミールを離れるのじゃろ。伝えておかなくて良いのか?」 「そうだった…。でも、その前にそろそろ苦しい。トーカ解いて…。」 うつ伏せのまま顔だけトーカに向けて言った。 「やれやれじゃな。…変化解除。」 トーカが右手をわたしに向けて、わたしにかけてあった変化を解除する。一瞬、淡い光に包まれたわたしの腰に九つの尾が戻る。 「んんーっ。ありがと、トーカ。」 大きく伸びをして、尻尾の感覚を取り戻す為に動かす。うん、問題なさそう。 わたしの尻尾は黒い毛並みなんだけど、赤い毛も生えててちょっと模様っぽくなってる。なんの模様?って聞かれてもちょっとわからない。波を打ってるようにくねくねしている模様もあれば丸い模様だったりとまちまちなのだ。長さは結構長い、まっすぐにピンと伸ばしたらわたしの身長くらいあるんじゃないかな?でも毛がフサフサしてて、全体的にもっさりしてる感もある…。 「いつ見ても、良い尾じゃ。触っても良いか?」 「聞く前から触ってるじゃん…。いいけど、尻尾ってなんか神経が集中してるのかわからないけど敏感なんだよね。あんまりガシガシしないでね。」 わかっておる。と言いながら顔を埋める勢いでわたしの尾を堪能しているトーカ。いつもはキリッとしてるトーカも、この時ばかりは頬を緩ませて感触を堪能している。顔が赤いのは興奮でもしているんだろうか…? でも、そんなトーカは可愛いのでトーカの触っていない尻尾でトーカを包んであげる。尾に包まれて顔だけだしているトーカは、その顔を幸せそうに緩ませていて、これまたなんともかわいい…。 わたしが普段、尻尾を隠しているのは単に目立つからと理由に他ならない。本当なら隠すこともせず出していたいんだけど、トーカいわく、こんな代物誰がいつ触るかわからん。しまっておけ。だそうだ。当時のわたしはえ、そこなの?とも思ったけど、今はそんなに深くは気にしてない。最初こそ、なれなくて大変だったけど、今じゃ頑張れば1週間くらいは耐えられるので問題ない。 「トーカ?そろそろ伝えに行かないと。」 「…そうじゃな。儂はここで待つ。」 まだまだ、かわいいトーカを見ていたい気もするけど、やらなきゃいけないことがまだ残ってるので、仕方なくどいてもらう。 出発前、最後の用事を済ませちゃおう。
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