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木の葉が赤や黄色に染まって、空が高くなり、うろこ雲を造る。今は秋、読書の秋である。本を読んでみたいとお昼休みに図書室へふらり行くと、図書委員の男子が眠たそうに欠伸をしながら本の整理をやっていた。わたしは本棚の中からヘミングウェイの『老人と海』を選び、少し冒頭を読んでから、借りてみようと図書委員の所に持って行った。借りる為にはノートに名前と借りた日を書かなけばいけない。
「2年生?修学旅行でしょ。読む暇あるの?」
ぶっきら棒に話しかけられ少し困惑する。
「うん、これくらいの分量なら直ぐに読み終わるよ」
「でも結構奥が深いよ。それ」
初めて口を利くのに随分馴れ馴れしいもんだと思い、ここは黙秘権を使わて貰った。自慢ではないがこれでもモテるほうなのだ。気軽に話しかけられても困る。
「修学旅行に差し支えない様にしてね」
わたしは依然として黙秘権を遂行する。
だが図書委員が拘るにも訳がある。わたしが通っている埼玉県の北部の、私立松が丘高校もあと2週間足らずで修学旅行なのだ。我が校は修学旅行は毎年恒例、北海道に行く事になっている。よっぽどの理由が無い限り全員参加の決まりだ。とっ言っても固い旅行ではない。あくまで他の学校と変わらね楽しい修学旅行である。旅行期間は5泊6日、それだけかけて北海道を回るのだ。今からワクワクドキドキするが、学級委員長のわたしとしては冷静沈着でいなければならない。本を借りたのも浮かれているのを律する為だ。
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