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遠出の帰り、バス停でバスを待っていたら、なんとも焦げ臭い匂いが漂ってきた。
どこかで火を燃やしている。もしや火事か? でも周囲を見回しても、火の手が上がっているような様子はない。
「あの…さっきから、焦げ臭いというか、何かが焼けるような匂いがしませんか?」
ちょうど近くに、やはりバスを待っているらしき人がいたので、思い切ってそう尋ねてみた。
すると、尋ねた相手は急にじっと俺を見つめてきた後、苦笑いを浮かべた。
「ああ、そんなに匂いますか。でも、せいぜい『焦げ臭い』ならいいか。前は『とんでもない異臭がする』とか言われてたから、それに比べればずいぶん匂わなくなったらしい」
相手の発言の意味が判らず、さらに質問を重ねようとした瞬間、目の前の人物が突然火に包まれた。
驚きすぎて、慌てるを通り越して固まった俺の前で、燃え上がる相手が笑う。
「自分じゃ判らないけれど、人が焼ける匂いは凄いらしいですね。…いくら死にたいくらい血迷っていたとしても、死ぬのに焼身自殺を選ぶんじゃなかったかな」
どこか申し訳なさそうにそう言い残し、今話しかけた相手は消えた。それと同時にさっきまで漂っていた焦げ臭さも消えた。
今、俺は何を見たんだろう。
焼身自殺と言っていたが、あれは、自らに火をつけて死んだ人間の幽霊だったのだろうか。
とんでもないものを見てしまった。でも一つだけ、不幸中の幸いだと思えることがある。
さっき目にした炎の勢いがとんでもなく強くてよかった。でなかったら俺は、一生トラウマになるレベルの、人が燃える様子を目撃してしまったことだろう。
あの霊は、ずっとここで、焦げ臭い匂いを感知した人の前に現れるのかな。
どうかその人達が、炎の中身を拝まずにいてくれればと思う。
焦げた匂い…完
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