自殺前夜

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 あっという間に半年が過ぎ、一年経っても安藤との関係は改善しなかった。綾香はもう一度、安藤との拗れた人間関係を修復したいと心から願っていた。会社を辞めるという選択肢は綾香にはなかった。『たった一年で泣きべそかいて退職するなんて、そんな負け犬みたいなのはイヤだ』と綾香は強く思った。  『やり直すんだ。シスター制度からやり直したい』綾香は悩みに悩んだ末に安藤のマンションの前に立っていた。電話をかけるとスリーコールで安藤は電話に出た。 「はい、安藤です」着信画面から、綾香からの電話だと分かっている安藤の声は(いぶか)しげ気だ。 「夜分に申し訳ありません。吉川です」綾香の心臓は早鐘のように鳴った。マンションの下にいる事を綾香が告げると安藤は「ええっ?」と驚いたような声を出した。  安藤は仕方なく綾香を室内に招き入れた。 「で、こんな所まで押し掛けて来て何の用?」静かなマンションの部屋に安藤の声が響く。プライベートの空間で聞く安藤の声は綾香には余計によそよそしく感じられた。 「まあ座って」洒落た白い革のソファを綾香に勧めながら安藤はキッチンに立つと、グラスにカラカラとたっぷりの氷を入れてミネラルウォーターを注ぎ綾香の前に置いた。  グラスの中できらきら光る氷を見ながら綾香は腹を据えた。
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