自殺前夜

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「私思うんだけど……人を嫌いになるのに理由なんてあるかしら。人を好きになるのに理由がないように嫌いになるのにも理由なんてないと思うの。何となく嫌いなの。昔の人は上手く言ったわよね。虫が好かないって事よ。これといって理由はないけど何となく貴方の事……無理って感じ。最初は可愛いって思っていたのに、人ってやっかいよね」  安藤はそう言うと、もう一度グラスを持って一気に水を飲み干した。白く華奢な喉元がゴクリゴクリと上下に動いた。  安藤の言葉に声も出せずに唖然としたまま、綾香の目は見るでもなく安藤の喉の動きを追った。その時、綾香の中でピンっと張っていた糸がプツリと音を立てて切れた。 「ひどい……理由がないってどうゆう事ですか。こんなに悩んだのに……一年も悩んだのに……理由がないって。何となくなんて……ひどい」綾香は思わず立ち上がっていた。  その後の事は綾香ははっきりと覚えていない。気付けば、ただ目の前のソファにぐったりと(もた)れかかった安藤の姿があり、自分の両の手はひどく(しび)れてブルブルと震えていた。  綾香は震える手で無意識に水を飲み干した。
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