自殺前夜

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 入社すると綾香は総務部に配属され、主任の安藤の下で研修を受ける事になった。それは「ブラザー・シスター制度」と呼ばれ仕事の事は勿論、社内での事は何でもブラザーもしくはシスターに全面的に頼って良いという有り難い制度だった。  主任の安藤は三十歳前半のスレンダーな色白美人だ。ゆるくカールしたセミロングの髪は、安藤が椅子から立ったり座ったりする度にふわっと良い匂いがした。  安藤は綾香を「綾香さん」と下の名で呼び、まるでランドセルを背負った一年生に接するように事細かに世話を焼いた。綾香は最初の方こそ安藤の面倒見の良さを有り難く思っていたが多少仕事に慣れてくると、そんな安藤が(いささ)か面倒臭い存在になっていた。  鋭い安藤の事だ、自分のそういう思いに気付いていたかもしれない……‥後々綾香はそう思う度にヒヤリと背中に冷たい汗を流した。
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