自殺前夜

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 「人を嫌いになるのに、          理由なんてあるかしら」  十分ほど前に氷の微笑を浮かべてそう言い放った美人上司は、一人掛けの白いソファにまるで眠り姫のような死に顔でダラリと力なく沈み込んでいる。 『美人って死に顔も綺麗なんだ……』綾香はしんと静まり返ったマンションの一室で、死んだ安藤の顔をぼんやりと見ながら立ち尽くしていた。 『取りあえず、ここから出よう……何だか頭がぐらぐらする』  足を(もつ)れさせながら靴を履きドアを押しやると、後ろでカランと氷が小さな音を立てた。  『苦悶の表情くらい、眉間の皺一本くらい残してよ……』と綾香は安藤のマンションを出ながらブツブツと声にならない声で呟いた。  
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