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3.過去の惨劇
女の一言で、三人の間に張り詰めた空気が流れた。銃を突き付ける女。椅子に縛られ、銃を突き付けられる男。その傍らで静かに紫煙をくゆらせるもう一人の男。まるで下手くそな不条理劇のようだと、意識の片隅の最も冷めた所で武田は思った。
「……殺したんですか? 彼が、あなたのご主人を?」
芦田は芦田で、月下の湖水のように静謐だった。
「そうよ。この男が小学生のころ、わたしの近所に住んでいたの。わたしの息子とも親しかったわね。……もっとも、他に近所付き合いはあまりなかったようだけど」
その理由は、芦田にも判った。武田の独特な家系のせいだろう。霊能者を多く輩出する家などというものは、いわゆる“普通”の人々にとっては胡散臭いものでしかない。あるいは、死の気配を感じて忌避するかだ。どちらにしろ、異質なものを人々は排除しようとする。
武田は面白くもなさそうに聞いている。
「わたし達はいつだってこの男に親切にしてやったわ。それなのにこの男は……変な力を使って、わたしの夫を精神錯乱に追い込んだのよ! おかげで夫は自殺したわ。いいえ、この男が殺したのよ!」
「何を言ってるんだか」
吐き捨てるように武田は言った。
「あんたの亭主が何やってたか、忘れたわけじゃないだろ? あんたの亭主は、自分の快楽のために年端も行かない幼い女の子を何人も殺していたんだぜ。皆からの信頼が厚かったからバレなかっただけじゃないか。──そう言えば、殺人が頻発するから自警団を作ろうって言い出したのもあんたの亭主だったな。新たな事件を起こさないためじゃない、セキュリティをかいくぐって自分の犯罪を続けるために!」
武田の言葉に、女はたじろいだ。
「嘘よ、そんなの」
「嘘なもんか」
「……“見た”んですね」
二人の激しいやりとりの中に、芦田の静かな声が割り込んだ。柄にもなく激しかけていた武田が、その一言で我に帰った。
「──ああ。“見た”んだ」
記憶が、フラッシュバックする。
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