3.過去の惨劇

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「──首を締め上げられながら、俺はその部屋中に染みついた“想い”を感じていた。その部屋で殺された少女達の、断末魔の“想い”だ。俺は自分の“力”の全てを使って“想い”をかき集め……」  そこで武田はためらうように言葉を切った。 「どうしたんです?」  芦田がうながす。 「……憑かせた」  何処か苦しげに、男は言った。 「よくそんなことが出来ましたね。いくら幼い頃から修行していると言っても、その頃の君には“見る”だけで精一杯でしょう」 「夢中だったからな。後から思い返してみても、どうやってあんなことが出来たのかさっぱり判らなかった。ただ、俺の首を締めることにより、奴の頭にはこれまでの殺人の記憶が無意識的に喚起されていた筈だ。“想い”と記憶が結び付けられれば、憑けるのも簡単だ」  そして武田は女を見た。 「そこへやって来たのがあんただったな。どうしてあの時、あんたはあそこへ来た?」  女はひるんだように見えた。 「それは……妙な気配を感じたからよ。一つ屋根の下ですもの、それくらい判るわ」 「なるほどな。つまりあんたは、あんたの亭主が何をやってたか、薄々知ってたわけだ」  たじろぐ女に、武田は哀れむような眼を向けた。 「事件の関係者で、真相を知っていてわざと気付かないようにしている奴ってのはたまにいるんだよ。明るみに出してしまうと、今までの平穏な生活が崩されてしまうからな。嘘っぱちの平和にしがみついて、見て見ぬ振りを続けるんだ。特にあんたは、地位も金もある家庭の幸せな奥さん──という自分が好きでたまらなかったようだからな」 「だ、黙りなさい!」  銃を手にした女の恫喝にも、武田はひるまなかった。 「あの日あんたが感じたのは、亭主が俺を殺そうとした気配なんかじゃない。俺があんたの“幸せな生活”をぶち壊した気配だよ。さっきあんたは俺に親切にしたやったとか何とか言ってたが……俺はあんたの“してやってる”って態度が、ずっと鼻持ちならなかったんだ」 「黙りなさい!!」  女は小型のリボルバーを武田に向けた。 「あんたなんかに何が判るって言うの。あんたのせいでわたしの家庭はバラバラになったのよ。夫は犯罪者として自殺して、息子だって高校の頃に家出してそれっきりだわ。あんたはあれからすぐに街を出たから知らないでしょうけどね」 「悪いが知らないね。知りたくもない」 「あんたへの恨みはずっと忘れたことがなかった。つい最近、偶然あんたが警察官になったことを知ったのよ。わたしの家庭を壊した男が刑事ですって? 冗談じゃないわ」 「人がどんな職業に就こうが勝手だろう」 「うるさいわね! わたしはあんたを殺すことを決心したのよ。ただでは殺さない、わたしと同じように苦しめて殺してやる!」  銃を握る手が明らかに震えている。引き金は今にも引かれそうになっていた。  武田は。 「殺ってみろよ」  唇の端を吊り上げて、わらった。 「ただし、やりそこなったら、あんたの亭主と同じ目に合わせてやるぜ?」  挑発するように。 「撃てよ」  引き金にかかった指に──力が入りかけた。
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