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4.悪意の行方
「お人好しですね、君は」
その時、第三の登場人物が言った。
女と武田は、同時に縛られた男を見た。
「さっきから聞いてれば、何のことはない。ただの逆恨みじゃないですか。こんな恨みなんか、君が引き受けることはないでしょう?」
「何よ……一体」
思わぬ所からの横槍に、女は動揺したらしかった。
「確かにあなたは苦労したんでしょうがね。ですが、武田さんへの恨みが今まであなたを支えて来たんじゃないですか? “幸せな生活”からの転落、その原因の全てを武田さんのせいにしてれば、あなたは楽ですからね」
芦田は武田に顔を向けた。
「さっき、事件の後街を出たとか言ってましたが、違うでしょう? こういうことをしでかしてしまった君と君の家族は、街にいられなくなったんじゃないですか?」
「余計なことを……」
思わずもらした低い呟きが、芦田の言葉を肯定していた。芦田は溜め息をついた。
「全く、お人好しですよ。こんなくだらない逆恨みを引き受けて、わざわざ自分から憎まれ役になるなんてね。巻き込まれた方の身にもなってくださいよ」
「何……ですって?」
驚く女と対照的に、武田は渋い顔をした。
「最初に言っただろう、本当はここへ来るつもりすらなかったんだよ。大体俺は、あんたがこんな所にいることの方が不思議なんだ」
芦田は明るく答えた。
「いや、僕は単なる好奇心ですよ。この人が君とどういう関係なのか、知りたかったんです。でももう気が済みましたから、そろそろ帰るつもりだったんですけどね」
「か……帰る、ですって?」
「はい」
こともなげに言って、芦田は──立ち上がった。
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