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1.匿名の手紙
一番最初は、送り主の名前のない手紙だった。
武田春樹の元に手紙が来ることなど、一年に数回程度のことだ。内容はと言うと義理だけの年賀状だとか、ごみ箱に直行するだけのダイレクトメールだとか、行く気もしない同窓会のお誘いだとか、そんな程度のものがほとんどだ。
何の変哲もない白い封筒は、ポストの中でひどく目立っていた。恐らくパソコンを使ったと思われるそっけない文字が、くっきりと白いラベルの中に打ち出されていた。「武田春樹様」。
手を伸ばしかけて──武田は一瞬躊躇した。
……悪い予感がした。
かすかだが、何とも言えないどす黒い気配が封筒を取り巻いているのが判った。悪意。事件の現場に行くたびに、例外なく感じる気配だ。それでも武田は対照的に白すぎる封筒を取り上げた。ラベルにプリンターで打ち出された文字。それ以外には何も書いていない。消印は近くの郵便局のものだ。何の特徴も、そこには見出されない。
武田は充分に気を付けながら封を切った。カミソリの刃などは仕込んでいないらしい。
中に入っていたのは紙切れが一枚。やはりよくあるフォントを使った文字で、一言だけこう書かれていた。
「人殺し」。
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