夏の日の紅い金魚

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「え……ちょっと待ってよ!」 思わず叫んだ、その視界の中で、 洗面器から恐らく飛び出してしまったのだろう金魚が、 ぴちゃりと床の上で渇いた魚体を跳ね上げた──。 それと同時に、僕の携帯がけたたましく鳴り響いて、 出ると、それは高校時代の友達からだった。 「野村 咲って知ってるだろう? 彼女、事故で亡くなったんだって。 明日、お葬式だって聞いたんだけど、おまえも行くか?」 僕は、「うん……」と、短く電話越しにうなづいた。 『その金魚は、君にすくってもらいたかったんだろうね?』 ……夜店の店主が言っていた言葉が、ふと頭を掠めて過ぎ去った。 電話を切ると、止まっていた時が動き出すかのように、また夏空にうるさく鳴く蝉の声が耳についた――。 終わり
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