23人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「え……ちょっと待ってよ!」
思わず叫んだ、その視界の中で、
洗面器から恐らく飛び出してしまったのだろう金魚が、
ぴちゃりと床の上で渇いた魚体を跳ね上げた──。
それと同時に、僕の携帯がけたたましく鳴り響いて、
出ると、それは高校時代の友達からだった。
「野村 咲って知ってるだろう?
彼女、事故で亡くなったんだって。
明日、お葬式だって聞いたんだけど、おまえも行くか?」
僕は、「うん……」と、短く電話越しにうなづいた。
『その金魚は、君にすくってもらいたかったんだろうね?』
……夜店の店主が言っていた言葉が、ふと頭を掠めて過ぎ去った。
電話を切ると、止まっていた時が動き出すかのように、また夏空にうるさく鳴く蝉の声が耳についた――。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!