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一方、蜜柑は魍魎の球体をまえに、口角を持ち上げた。
隣の部屋の騒々しさなど意に介さない。
「そろそろ食い尽くされた頃か」
その呟きに、黒い球体の表面を這う小鬼が顔を向けてきた。しかしすぐに黒蛇の群れを掻き分けて、内部へともぐりこんでいった。黒い蜘蛛が骨の軋むような鳴き声をあげながら口を動かしている。鈍く光る赤い複眼に、鬼の笑みが映り込んでいた。
球体の内側から突き出てきた刀の切っ先が、蜘蛛の頭部を両断する。
そのまま、蜜柑の胸を刺し貫く。
「!」
球を形作っている魍魎たちの動きが鈍くなっていく。せわしない蠢きがしだいに停滞していき、黒蛇や蜘蛛や小鬼が黒い靄になって消えはじめた。
眉を顰めた蜜柑は、胸に刺さった刀身を素手で握った。引き抜こうとするが、球体から突き出した刀はびくともしない。
魍魎たちが消えて、黒い球体の輪郭が溶けていく。
内部から刀を構えた愛染が現れる。
刃に蜜柑を捉えて、強い眼差しで睨みつける。
「てめぇ、どういうことだッ……。俺の魍魎どもに何を……!」
鬼は血泡を飛ばして声を荒げた。
愛染のまわりは光の粉を散りばめたように輝いていた。真白い光に触れた魍魎は黒い煙になって霧散していく。鬱蒼とした密度で愛染を捕えていた魑魅魍魎たちは、腕を払えば散り散りになってしまうほど覚束ないものになっていた。
「これが、お前が嘲笑った、人の呪いの力だ」
蜜柑は顔を歪めて歯を食いしばる。こめかみに青筋を浮かべ憤怒に震えている。
その表情を刃が両断した。胸から切り上げられた刀が、鬼の顎から頭頂へ抜けていき、天井まで血が飛び散った。
「身をもって知るがいい」
崩れ落ちた蜜柑の亡骸へ、愛染は冷たい声音で投げかける。
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