【一】

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硝子(がらす)が砕けるような甲高い音が響く。 続いて、耳を(ろう)する爆発音に床が揺れた。 結界を張った襖が室内に向かって吹き飛んだ。壁や鴨居(かもい)瓦礫(がれき)が飛び散る。 長谷川と彩が総治郎に抱き着き、愛染は三人に覆いかぶさった。破片や粉塵(ふんじん)を含んだ爆風が吹き荒れる。流川は仲間たちを抱え込んで自ら壁となる。 立ち込めた煙が揺れる。廊下から血の臭いと腐臭が流れ込んでくる。 「やっほー! おまたせ、ぼくが来たよっ!」 陽気な声とともに粉塵のなかに人影が現れた。 「ぼくだよ、ぼく! みんなの枇杷(びわ)くんだよ、キラッ☆」 橙色(だいだいいろ)の髪をした青年が、片目を閉じて、赤い舌をペロリと出した。口調同様明るい表情で、楽しそうに笑っている。緊迫感と死者と殺戮に塗れた城内で、その笑顔は明らかに異質だった。 橙の髪を割って額の中央から生えている、角。 一見してわかる鬼の特徴。愛染や流川たちの表情が凍り付く。 「ほらほら~そんな顔しないで! みんな笑って! 楽しいときも悲しいときも怖いときも笑っていれば大丈夫! どうせきみたち人間はぼくたちにめためたに殺されちゃうんだから、笑顔で()こっ☆」 鬼は黒い着物のうえに、鮮やかな若草色の着物を羽織っていた。くるくると回って裾を翻して遊んでいる。 長谷川と彩の腕のなかで、総治郎がか細く呟いた。 「あ……母さまの羽織……」 季節の花が織り込まれた着物には赤黒い染みがべっとりとこびりついていた。 愛染と流川が素早く動く。総治郎の視界を遮るように、彼らを背に庇って立ちふさがる。 枇杷と名乗った鬼は、抜身の刀を手元で弄びながら、犬歯を見せて笑った。 「おっ。まずはきみたちからだね。やっちゃうぞッ☆」 「おい、くそ枇杷」 不機嫌な声とともに、枇杷の背後からもう一人が現れた。
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