【一】

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数打打ち合った末、押し返された枇杷がもと居た位置まで飛び退いていく。 そのあいだに長谷川たちは重たい扉を開けて、外回廊へ出ようとしていた。山の高所を吹き渡る風が彼女たちの髪や衣服を煽る。 彩に手を引かれた総治郎がふいに振り返る。 「愛染! 流川! がんばって!」 恐怖と涙を精一杯に堪えて、 「待ってるから……!」 幼い主の言葉がふたりを鼓舞する。 胸の底に熱いものを感じた。それは勢いよく燃え上がり、愛染の矜持とともに身体中へ循環していく。焦燥も緊張も、総治郎が灯してくれた火で溶けて消えていく。 愛染同様、流川の横顔にも熱と勝気な笑みが戻って来ていた。 総治郎たちの姿は外回廊へと消えて行った。 間合いを取りなおした枇杷が再度、流川めがけて飛び掛かって来た。振り下ろされた一撃を(かわ)し、踏み込んで切りかかる。刃が打ち合い火花が散る。 押し込む流川の双眸(そうぼう)は狼のごとく輝いていた。 その圧力に触発されて、枇杷も瞳をぎらぎらと光らせ、笑みを深めている。 嬉々として戦う仲間を見て、蜜柑は呆れるように肩を竦めた。自らの坊主頭を気だるげに撫でると、手にした短刀を持ち上げる。 対峙する愛染は刀を構える。神経を研ぎ澄まし、鬼の一挙手一投足に注視する。 「面倒くせぇが、餌場には悪かねぇか」 廊下の屍たちがなだれ込んでくる。首を折られ、腕をもがれて命を落としても、無残な姿で動き続けている亡者たちが、鬼の後ろに付き従うように集まっていた。 蜜柑が短刀を軽く振る。 亡者たちの口から黒い(もや)のようなものが吐き出された。それは尾を引きながら天井付近に集まって、禍々しい黒い影がとぐろを巻いて膨らんでいく。靄に見えたそれは無数の黒い蛇や蜘蛛や小鬼らが密集したものだった。鳴き声が重なり合い不気味な唸りとなって耳朶(じだ)(おか)してくる。
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