【二】

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「蜜柑くん氏~。一瞬だけ、一瞬だけ助けてもらっていいっすか☆」 二間続きの隣の部屋にいる蜜柑は眉をひろめて大きく舌打ちをした。 「マジで糞みそにふざけた野郎だな」 吐き捨てると、愛染を取り込んだ魍魎の球体に短刀を差し向ける。 無数の魑魅魍魎が(うごめ)いているなかから、人の腕ほどの太さの黒い蛇が抜けだした。身体をくねらせて枇杷のもとへ飛んで行き、その身体に巻きついていく。 蛇が裂けた右半身を締め上げて固定した。落ちた刀を左手で拾い上げた枇杷は、柄を握ったままの自分の手首を無造作に投げ捨てる。右腕に絡みついた蛇が刀まで巻き付き、腕と刃が一体となった。 「シャキーンッ! 枇杷くん、改! 爆ッ誕☆」 まるで新しい玩具を手にした子供のように無邪気に、枇杷は右腕と刀を高々と掲げた。 その姿が一瞬で目前に迫って来た。 流川の身体は反射的に動き、床に這いつくばるように屈み込む。反応が遅れていれば胸を貫かれていた。鬼の足元を狙って蹴りを放つ。枇杷は当たり前のように飛んで躱し、しゃがみこんだ体勢の流川の頭を狙って刃を振り下ろした。 水平に構えた刀で凶刃(きょうじん)を受け止める。刀の峰に手を添えて、押し込んでくる鬼の膂力に腕だけでなく全身の力で抗う。硬質なものが噛み合う音が、かたときも油断できない緊張感を打ち鳴らす。 「この……! ご機嫌野郎が!」 刀身を傾けて、敵の刃を滑らせる。 勢いをいなされた鬼の体勢が崩れる。すかさず、流川は鬼の腹を突き飛ばすように蹴りつけた。 「ぐえ~」 後ろに吹っ飛んだ枇杷は、空中で身をひねって壁に着地。砂壁に腕の刀を突きたてて垂直に静止した。流川のほうを見て、にやにやと笑っている。 対して、苦々しく表情を歪める。 「これだから鬼ってのは」
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