【一】

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「目的のブツはここには無ぇってわかったんなら、ふざけてねぇで適当に殺して、魍魎共に餌食わせて、とっとと終いにしやがれ」 細い目に、悪態を吐く口元。坊主頭の両側には線が剃り込まれている。尖った耳にいくつもの銀輪がぶらさがり、額には二本の角があった。黒い着物に、赤黒い不気味な色をした袈裟(けさ)のような布をまとっている。 「なにごとも遊び心って大切だよ? たとえ羽虫を殺すときでもさ!」 「オレを付き合わせるんじゃねぇよ、くそが」 乱暴な言葉を叩きつけられても、枇杷は気にも留めていない。 「ほらほら~蜜柑(みかん)くん。ぼくたち、地元じゃ無敵の愉快な橙組(だいだいぐみ)だろ! 楽しく行こうズェ☆」 「てめぇの地元なんか知らねぇ」 蜜柑と呼ばれた坊主頭の鬼は室内を見回すと、法衣姿の彩に目を留めた。手にしている短刀の切っ先を彼女へ向ける。 「あの程度の結界なんざ薄氷(はくひょう)よりも(もろ)いもんだ。下等な魑魅魍魎どもは退(しりぞ)けても、俺たち鬼には効きやしねぇ。所詮、人の使う呪いだ」 加速的に空気が張り詰めていく。 愛染と流川は刀の握り、敵との間合いを測る。自身の心臓の音がやけに大きく耳元で響く。 「長谷川」 流川が言葉を向けると、彼女はすぐさま返事をした。 緊張はしているが恐怖には飲み込まれていない、しっかりとした声だった。 「お二人を頼む。俺たちもすぐに追う」 「お任せください」 長谷川は彩と総治郎を促して立ち上がる。 二体の鬼たちから、愛染と流川が盾となる。 にやにやと笑う枇杷が駆け出す。 「とかって~行かせるわけないじゃんね~うっふふ☆」 一瞬で距離を詰めてくる鬼の脚力。 突き出された刀を、流川の一振りが叩き落す。鬼の進路に割って入る。 「そうだよな、行かせるわけがないよなァ」 「だよね☆」
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