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-アーケイディア 大聖殿内 聖堂-
「全知全能たる創世神、慈愛の聖母神ファナエルティナよ………」
聖堂内の聖母神の像の前で、膝をつき、祈りを捧げているのは一人の有翼人であった。
神聖性を感じさせる、波打ち輝く銀糸の腰まで覆う長い髪と、煌めくような紫の瞳。この世の者とは思えぬ美しさを持つ娘。
アーケイディアの人々に光の聖女・慈愛の乙女と崇め讃えられている娘………名を『ティアラ』と言った。
一心に祈りを捧げていたティアラは、何かに気付いたように『ハッ』として、閉じていた目を開き、顔を上げた。
「………何かしら?何だか…不穏な、胸騒ぎが………」
そう言って、光が差し込むステンドグラスを見上げた。色とりどりのガラスから降り注ぐ光は、ティアラまでをも染める。
-ツカツカツカ、バァンッ
荒々しく速い靴音が近付いてきたかと思うと、聖堂の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。
「ティアラッ!ティアラはいるかッ?!」
開け放たれた扉から聖堂内に入ってきたのは、一人の男。燃える炎のような紅蓮の髪と、金の瞳を持った、若く精悍な顔付きの有翼人の男。
戦の申し子・常勝の戦神と謳われる、近衛将軍『アシュレイ』だった。度々の『戦勝祈願』の為でさえも王都神殿の聖堂はおろか、大聖殿には寄り付きもしないのに………。
「ッアシュレイ様?!お珍しいこと、どうなされました?このティアラに御用ですか?」
ティアラは驚いたようだった。それもそのはず。大聖殿で起居し・生活するティアラと、アーケイディア城内の近衛将軍執務室(続きの間にアシュレイの私室がある)で過ごし、日々兵達の指導や自己鍛練に励むアシュレイは、顔を合わせることなど、殆どない。
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