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ゆう(原田 優香)
「あー!降ってるー!」
もう小雨とは言えない程の雨足に、私は大きな独り言をこぼしてしまった。
誰もいない美術室は、静かでとても集中できた。集中し過ぎて下校時刻になったことも、雨が降りそうだったことにも気付かなかった。
急いで片付け、先生に挨拶して飛び出したものの、時すでに遅し。
家まで走れば10分。これ以上雨がひどくなる前に帰ろうとした時、少し離れた所にいた女の子と目があった。だけど目があった瞬間、目を逸らされた。
肩の上で切り揃えられた艶のある黒髪の小柄な女の子。大きめの制服から1年生と推測する。折り畳み傘を開くのに苦戦する可愛いらしい横顔に、見覚えがあった。
「開いた…」
「原田さん!」
「!!」
彼女の声を聞いて、思い出した。1番最初に見学に来て、そのまま入部してくれた1年生。1人で見学に来ていたことと、去年、私が銅賞をとった絵に見入っていたのを思い出した。
「えーっと…名前、間違えてた?」
「いえ…合ってます…」
しばらく後、小さな声で返事をくれた。
「良かったー!思い出すのに時間かかってゴメンね」
「いえ…大丈夫です…」
緊張しているのか目が合わない。とは言え、声をかけておいて話をしないのも気まずい。
「原田さんも、今帰り?」
「はい。委員会で…」
「そっかー。委員会も大変だね」
「はい…」
話が続かない…
「私はね、1人で絵を描いてたんだ。締め切りはまだ先なんだけど…」
「コンクールに出品する絵ですか?」
絵の話をすると、キラキラした目を向けてきた。さすがは美術部員。
「そうなの!時間をかけて、去年よりもっと良い物を描きたくてね」
「すごい!」
感嘆と称賛の混じった声が嬉しい。
もっと話したいけど、いつまでも引き止めているのも悪い。
「あ、ゴメンね!呼び止めて。先帰っていいよー」
「あの…先輩、傘は?」
「持ってない!でも大丈夫!近いから走って帰る!」
親指を立てて笑うと、原田さんが遠慮がちに口を開いた。
「あの、先輩…」
「何?」
「傘、小さいですが……一緒に帰りませんか?」
小さな声で、でもはっきりと言ってくれた。
「いいの?ありがとー!ではお言葉に甘えて」
私が喜んで彼女の隣に立つと、彼女もちょっと嬉しそうに笑った。
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