赤いサービスDay

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「この店ね、毎週水曜日に赤いものを身に着けていくか持っていくと赤ワインのグラスを一杯サービスしてくれるのよ」 一週間前に知り合ったばかりのオンナに食事に誘われて連れてこられたレストラン。この店自体は特に変わったところはなく、ごくありがちな落ち着きのある店だ。  オンナは、恭子とだけ名乗っていて、知り合った場所は職場の先輩に連れていかれた昭和の雰囲気そのままのスナックだった。俺の隣に座り水割りを作ってくれて、それを俺が飲んで、というただの客と店員のやり取りしかしていないのに、今度二人で食事に行こうと誘われた。そして今日、どんなオンナなのかも大して知らずにのこのことついてきたのだ。  メニューを開きながら恭子は、「私ね、男を味わうのが好きなのよ」と目を細めて微笑む。 俺はごくりと喉を鳴らした。味わうっていったらあっちのことか、と体の中心を固くしながらほくそ笑んだ。酒を飲んで程よく酔って、そのあと赤いつやつやとしたその唇で・・・ ちらりと恭子に視線を送るとばっちりと目が合ってしまった。俺は慌てて目を逸らした。 「お決まりでしょうか?」 蝶ネクタイの店員が品の良い声で注文を聞く。 「今日は赤いものの日よね?」 店員ははいと答え、今日は何をお持ちで?と聞き返した。 「今日もこの赤い唇でいいかしら?」 「たしか前回もそうおっしゃっていましたね。はい、赤い口紅で結構でございますよ」 恭子はきっと、何度もサービスDayに足を運んでいるらしいことが今のやり取りで分かった。 その後店員は俺に、お客様は?と注文を聞いてきたので、たまたま持っていた赤いボールペンを見せた。 「はい、ではお客様も赤ワインで」 店員は一礼して戻っていった。 「よくこの店には来ているみたいだね。赤い唇かぁ。女性はいいなぁ、口紅塗るだけでオッケーだもんね」 おどけて口紅を塗る真似をした俺を見て恭子は声を出さず唇だけで笑った。  食事を終えて、もう一軒行くかと誘ってみると、恭子は体をしならせ何も言わずに俺の腕を引いて歩いた。どこか目的地があるようで、その確かな足取りに従うようにして恭子に寄り添って歩く。一本裏の路地に入ると、少し先にホテルのネオンが見えた。 あそこに向かうのか・・期待に足が早まる。恭子を見下ろすと、タイミングよく恭子も俺を見上げた。半開きの唇で。赤いつやつやとした唇。 「その口紅、赤々としてきれいだね」 息荒く囁く俺に、恭子は体を真正面から押し付け、その唇を俺の顎に近づけながら 「これ、口紅じゃないの。さっき私、男を味わうのが好きだって言ったでしょ?これ、味わった男の・・生血なの」 そう言うと次の瞬間、俺の喉に激痛が走った。
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