梅雨

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梅雨

ザーー 雨が強く降っている。 "泊まっていきなよ" 彼は私に言った。 「いいよ。今日は。奥さんに怒られるよ?」 彼は困った顔で苦笑いした。 私は不倫している。 10個上の彼は会社の跡継ぎ息子で、 奥さんがいる。 「ちょっとコンビニ行ってくる。」 甘えてくる彼にそう言って、 ゆかに転がる下着と服を着た。 わざわざ雨が強く降ってる時に コンビニなんて行く必要ないのかもしれない。 止めない彼に少しがっかりして財布を持った。 "そばにいなよ"そんな一言を待ってただけだ。 透明のビニール傘。 雨音 私は嫌いじゃない。 コンビニは歩いて5分程度。 私は傘を閉じて傘立てにいれた。 そこにはビニール傘2本。 缶チューハイ、枝豆、いつも買ってる雑誌。 カゴにササッと入れて スイーツコーナーを眺める。 私は甘いものが苦手。 だけどあんこだけは好きで、 目に留まった白玉ぜんざいをカゴに入れて、 レジへ向かった。 女性が後ろを通って外へ出る。 この世に男なんて何万といるのに、 どうしてわたしは不倫してるんだろう。 本命をつくりたくないとかそんなことでもない。 居心地がいいからだ。 悪い事をしてるって感覚が居心地が良い。 失うものなんて彼の方が多い。 私には特にない。 だからセックスだけできれば、 彼の肩に寄り添えればそれでいいんだ。 ー1280円です。 店員さんの声でハッと我に帰った。 千円札と500円玉を出してお釣りを受け取った。 外はまだ雨が強い。 「あれ?」 私がさしてきた傘がない。 代わりに先にあった傘だけが残っていた。 でもまぁ、彼の家の傘だしいいかと、 先に傘立てにあったビニール傘をさして 彼の家へ戻る。 道中、 ふといつも見ているドラマの事を思い出した。 主人公が浮気をして奥さんと不倫相手が揉め、 後々不倫相手に子供がいることが分かって、 ドロドロと最終回までいきそうな、 そんな内容だ。 「雨、止まないかな〜…」 なんとなく呟いて傘立てに濡れた傘を ? 濡れた傘がもう先にささっていた。 ドアを開けた時、 目の前に女性が立っていた。 ああそっか。 二本とも彼の家の傘だったか。 先にさしてあった傘も彼の家のか。 ドラマの不倫相手はきっと最終回で こうやって、 そっか。 私はその場に倒れた。 腹部がぬるく暖かく、 鈍痛で視界が揺れる。 ひどく睨みつける女性を見て 私は瞼を閉じた。 雨が強く降っていて、 濡れた傘にあたって 雨音が鳴っていた。
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