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ギルグッドは何を考えていたんだ。たちの悪い冗談だ。
キースは階段に座り込み、遠い祖先を恨んだ。
何度本棚を眺めても、考えても、わからない。
やっぱり、だめだったんだ。
こうなることは、最初からわかりきっていた。そうさ。僕は魔法なんて使えないんだから。
螺旋階段の途中に置かれている装飾用の魔物の像が、じっとキースを見降ろす。体の割に大きな鱗を生やした、豹のような魔物だ。
それは、見たこともない灰色の金属で出来ていた。もしかしたら、ギルグッドがつくったのかもしれない。彼は魔法で彫像をつくるのが得意だったらしいのだから。
その魔物も緑の本の中に載っている。何ページ目だったか。最初のほうだ。
そういう魔物の彫像は、螺旋階段のあちこち、そして、城の玄関ホール、廊下、庭園、いたるところに設置されていた。
「僕にこの本が読めたら、おまえの名前もわかるんだろうけどな」
キースは豹の魔物を見上げて呟いた。
まあ、いい。そのうち、あと二人来るのだ。
二人のうち、どちらかは本の文字が読めるかもしれない。
いや、絶対読めるだろう。何しろギルグッドの子孫なのだから。
もしかしたら、彼らは魔法使いかもしれないし、でなければ学者か、あるいは剣士。何にしろ、僕よりはマシなはずだ。
「こんにちはっ!」
涼やかな声が遠くから聞こえた。
それは、ここ数日、キースが待ち焦がれていたものだった。
来た!
キースは立ち上がる。
音をたてて螺旋階段を駆け下り、青地に金色の刺繍の入ったマントをひらひらさせながら、キースは図書館を飛び出した。
扉が閉まり、キースの足音が聞こえなくなると、図書館に静寂が訪れた。天井のガラスドームから、午後の光が筋になって、やわらかく降り注ぐ。
と、魔物の彫像は、かぱっと口を開け、大きなあくびをした。そして、ぱちぱちと瞬きをする。
数回瞬きをするごとに像の目は生気を帯び、透明な青になる。
きらめく銀色の鱗をざわわと震わし、尻尾を左右に振ってから、魔物は再び灰色の動かぬ像に戻った。
図書館には、動くものが存在しなくなる。螺旋階段の真ん中を緩慢と舞う、金色の埃の粒子を除いて。
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