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『倫子!倫子!!』 待合室の方から、慎二の切羽詰まった叫び声が聞こえた。 『ちょっ……お静かにしてください……落ち着いて…』 『倫子!!頼む!!はやく………』 『どうしたの?慎二。』 診察室の扉を開けた。 慎二と、隣には抱えられる様に顔を隠す女。 その女の顔面は血塗れで 引っ掻いたであろう女の指先も、同じく真っ赤に染まっていた。 『か、かゆいー!かゆいのぉおお!助けてぇ……!』 『急に顔がかゆいって暴れだしたんだ! なんとかしてくれ!!』 『あらあら。布施さん。 どうしました?悪いものでも顔に塗りました?』 『……………!!あ、あんた…化粧水に何を………』 『すみませんが当クリニックは完全予約制なんです。 ご存じですよね? 新しく予約を取ってから診察券を入れてお待ち下さいね。』 『な、何いってんだよ!こんなに血塗れなんだぞ!?はやく手当てを………』 『どうして?』 『………は?』 『どうして泥棒の手当てを私がしなくちゃいけないの?』 『………み、見損なったぞ……』 『その言葉、そっくりそのままお返ししますね。』 顔面蒼白な慎二は顔の皮がビリビリに爛れて腫れ上がった赤い顔の女を抱えて出ていった。 『せ、先生……あの人は?』 『さぁ?(うるし)の樹液でも顔に塗ったのかしらね?』 山登りで手に入れた 漆の樹液をいれた小瓶をゴミ箱に投げ捨てた。 おわり。
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