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『…………、…やか!絢香!!』 目を開けると、泣いてるななこの顔があった。 『……ななこ………?』 『もう!鍵は開いてるし、床で倒れてるから! 死んじゃったのかと思ったよ!』 ななこがギュッと抱き締めてきた。 『ごめん……心配かけちゃって……』 『絢香、一体どうしちゃったの? この部屋も………なんで………』 空っぽの私の部屋を見渡した。 『断捨離よ。早く忘れないと次にいけないから。』 『なら、1番にこれを捨てるべきじゃないの?』 私の回りに転がる隼人の私物を指した。 『………わかってる……わかってるのに……… 出来ないの……………忘れるのが……怖い………』 『絢香…………』 その日は一晩中ななこが抱き締めてくれて ななこの体温が暖かくて 久しぶりに眠れた。 『これ。今日返そうと思う。』 翌朝、ななこが作ってくれた朝食を食べながら伝えた。 『……大丈夫?私が捨ててあげようか?』 私は首を横にふった。 『これがほんとの断捨離だから。 ちゃんと自分でやりたいの。』 『……そっか……』 私は段ボールの1番上に断捨離の本も詰め込んで 厳重にガムテープで蓋を閉じて、自分の車に詰め込んだ。 会社に着き、段ボールを抱えて自分のフロアの自分のデスクに段ボールを下ろした。 隼人は居なかった。 でも鞄はある。 まだ始業の時間よりだいぶ早い。 喫煙所かもしれない。 段ボールを再び持ち上げて、喫煙所に向けて歩きだした。 『え?隼人先輩結婚すんですか?』 『あぁ。』 喫煙所の前で、足が止まった。 『5年でしたっけ?ながいっスもんねー。』 『俺はまだ遊びたいところだけどな。 女は25も過ぎると結婚、結婚ってほんとうるせーんだよ。お前も覚えといた方がいーぞ。』 結婚……… あと10年はしないって話は? 5年も付き合ってるって? 私とは3年だよね? なんの……話? 『先輩の彼女さん……ななこさんでしたっけ? いい加減写真見せてくださいよぉ!』 『は?やだよ。』 『やっぱりかわいい系ですか?』 『あたり前だろ。本命は顔で選ぶし。 キープは聞き分け重視だけどな。』 私は急いでフロアに戻った。 絶対、偶然だ。 ななこなんて名前、よくあるし。 大丈夫、大丈夫…… 震える手でスマホを操作した。 『もしもし。絢香?どうしたの?』 『ななこ……あのさ、教えて欲しいの。』 『ん?』 『ななこの彼氏の名前って………もしかして隼人?』 『え?うん。そうだよ?え?なんで?』 『……ごめん…ななこ。私、知らなかった… ごめんね………』 『えっ……絢香!?………ちょっと?……』 そのまま、スマホは机に置きっぱなしにして 私はユラユラと段ボールを抱えて喫煙所に向かって歩き出す。 『…………そっか。断捨離されたのは私の方か。』
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