壱話 始マリニシテ奇ナル

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「しっかし、こうも皆の予定が合わないと怪談話も出来んぞ」 「まだ六月だし、いいじゃん」 「ばっか! 怪談話とは季節関係なしの恋愛成就の必須イベントだ。きゃー、怖い(棒読み)っと言って抱きついてくれればカップル成立だ!」 「な!」  氏上は「こいつ馬鹿じゃないの」と心底思った。  何かと恋愛絡みなことをしたいのが新二。それに付き合わされること十数年。もう慣れたが、相変わらず一緒にいると時折恥ずかしくなる。 「そうだ。怪談話で思い出したけど、この間『人喰ひ』の話をしたよね。僕あんまり知らないから」  先日新二が学校で怪談話をした際、誰かが『人喰ひ』の話をしたのを思い出した。結局話はいいところでチャイムに邪魔され、最後まで聞けなかった。  氏上も小さい頃から躾話として聞いたことはあるが、詳しくは知らない。毛色は『桃太郎』のような鬼退治に近い話だが、鬼は退治されない。  その話が生まれたのは舞又町がまだ「楢迦村」と呼ばれていた頃である。昔から楢迦川は色んなものを分断してきた。川を基準に西側を「上民」、東側を「下民」と差別をしていた。厳しい時代ともあり、差別化を図るためにその話が生まれたのでは。  では、その話とはどんな内容か。
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