壱話 始マリニシテ奇ナル

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「あー、この町には人を喰らう鬼がいるっていう奴だろ」 「うん。噂によれば、昔は東の民を「鬼」って言っていたとか」  新二は分が悪そうな表情を浮かべ、あまり乗り気な様子ではない。 気まずい雰囲気になりつつある中、新二はさくっと、コロッケを齧った。 「………」 「ど、どうしたの?」 「い、今何時だ!」 「五時だけど」  慌てたようにコロックを口の中に突っ込んだ。そして猛ダッシュで商店街の入口の方へと消えていった。  さっぱりわけが分からない氏上は置いていかれてしまった。  商店街の方もいつの間にか薄暗くなり、橙色の街灯が点き始めた。ガラス天井で覆われた商店街は少しでも暗くなると一気に夜のように暗くなる。  気が付いたら周囲にいた買い物客も今は誰もいない。まるで世界に一人取り残されたような感じが漂う。  影を曳く街灯は橙色を混ぜながら伸びていく。まるでムンクの『叫び』のように色は捻じ曲がったように混ざり合い、洪水のように地面を塗り潰していく。  氏上は後退する。  歪んだ影は形を作り始め、垂直に地面から伸びていく。まるで3Dのように影は立ち上がり、そっと近づいてくる。  前に友人の花形燐が話していた『商店街の影法師』を思い出した。  商店街がまだ活気が溢れていた頃、この商店街に突然影を纏う法師が現れた。それは特に何をするわけではなく、ただ現れるだけ。しかし会った者は何かしらの幸福が訪れるといわれ、ラッキーアイテムのような存在。  それが何故、今現れたのか。  氏上は目を見開く。
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