壱話 始マリニシテ奇ナル

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 暗い神殿の底——神は言うだろう。 「始まりは突然だ」  物語の始まりは突然が多い。初心者設定でチュートリアルがあるわけでもなく、本当に些細なきっかけでそれは風船のように膨らむ。  膨らんだ風船がいつ爆発するのか。それは風船しか知らない。  始まりが突然なら、終わりも突然。 「所詮人間などその程度なのだよ」  傲慢な神はそう語る。  怪異が起こる前兆など誰も予想など出来ない。      〇 〇 〇 〇 〇  神が何かを語る。そんな光景を何度も見た気がする。  氏上は走る。  商店街はそこまで長くないため、これだけ走れば本来なら出口に辿り着いているはず。だが、商店街のアーチが見えているというのに一向に近づいていない。影法師との距離だけが縮まる一方。  顔を真っ青にしながら氏上は足を縺れさせた。  派手に前のめりに倒れた。恐怖のあまりに痛みも感じない。 「はぁ、はぁ」  影法師の足が視界に映る。 〝現の狭間で夢見る者共よ。運命は廻る〟  それは大人びた少女の声だった。  氏上は顔を上げる。だが、影法師は既に消えていた。 「は、始まり」  影法師は出会う者に幸運を授ける。だが、氏上が授かったのは幸運などではなく予言に近いものだった。  黄昏に染まる商店街に人の活気が戻ってきた。地面に倒れ込む氏上は唖然とした表情でその言葉の意味を考えていた。
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