壱話 始マリニシテ奇ナル

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 一夜明けた。  ——……先程からしきりに電話が鳴っている。  もぞもぞ、と布団の中から手を出して、頭上においてある携帯電話を探す。それらしき固形物に指先が触れると、獲物を取るカメレオンのように素早く掴んで布団の中に入れる。  パカ、と開くと画面に十九件の着信が入っていた。それも全部同じ人物から。  上下キーで画面をスクロールしていくと、どうやらつい三十分前から数分刻みでかかっていた。発信元は『新二』。  現在時刻は『5:29』、早朝だ。 「う、早すぎる」  氏上は昨日の夕方の件もあり、中々寝付けなかった。やっと寝付けた頃は既に深夜は廻っていた。  これ以上電話が鳴り続けたら眠れなくなる。仕方がなく折り返し電話をかけた。  数度コールした後、ようやく出た。 『お、ようやく起きたか』 「う、ん。てか、何時だと思っているんだ。まだ六時にもなっていないよ」 『緊急の要件だから仕方がないだろ。太一が緊急だっていうからだぞ』  流石の太一からの「緊急」と言うが、後からでもいいのでは。  氏上は二度寝をする決意を新たにした。 『うぉい! 二度寝厳禁だ』  …………… 『寝るなぁ!!!』  耳元で煩い新二の声を聞く度に氏上はこう思う。  友人関係と言うものは一方的な迷惑行為から破局するのだ、と。  寝惚け眼で携帯の通話オフ釦を探す。 『……今日、部活が急遽休みになったらしいぞ』  ふと手が止まった。  太一と言えばここあたりではかなり有名なスパルタ野球部に所属している。顧問の菊池先生は「目指せ!甲子園」と掲げ、一回も休むことなく部活の日には来ている。  部活が休みになるということは菊池先生が休むということ。  甲子園を目標にしている彼が大事な時に休むのだろうか。
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