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02 危険な相合い傘
「そうそう、その調子。
さ、なんとか五分で辿り着きましょうよ」
「はぁ…………あの、ところで……あなたは、その……」
どこの誰なんですか、と聞こうと思った矢先、自分たちのすぐ後ろで強烈なブレーキ音が鳴り響き、驚き振り返ると、雨でスリップしたと思われる大型の車が、さっきまで自分が立って逡巡していた辺りに突っ込み、派手なクラッシュ音と共に地下道の入口の角に衝突して止まり、黒煙を上げ始めた。
「う……そ……!?」
幸いにか、それでも運転手は自力で脱出し、轢かれた者もいなかったようだが、もしあのままあそこにいたら確実に自分は轢かれていたはず、と思うとそれ以上声も出なかった。
足が震え始め呆然と立ち尽くしていたが、
「よし」
隣の男子が小さく言ったような気がして、はっとその顔を見上げると、
「危なかったですね。
でもまぁもしもの話は置いといて、現実にはあなたは何も関係無く済んでるんですし、気にせず行きましょうか。
警察とか動画撮ってUPするとかはもっとヒマな人たちに任せるとして、ほら」
軽く微笑んで私の背をぽんぽんっと優しく叩いて先を急がせた。
確かに実際、私は轢かれずに済んだわけで、このままここで呆然と眺めていたり、大騒ぎになっている運転手や野次馬や駅員の輪に加わったりしても何の意味も無さそうだった。
でも、それにしても、「よし」?
あそこを出る時もやたらと急がせた感じあったし、なんだろ、この変な違和感……。
若干の不審感を覚えたものの、おかしなもので、こんな流れで入った見知らぬ男子の傘であっても、一度入ってしまうと、若干の不審感程度では飛び出して雨に濡れるのがためらわれている自分がいる。
震える足でなんとか歩き出しながらも、ちらちらと傍らの男子の横顔を確かめるが、男子はお構いなしに、というかそんなことに気を取られている暇は無いといった様子で周囲を見回しながら、
「えぇとですね……どちらに行けばいいですかね。
いつもはどちらでしょうか?」
二股に分かれている進路を差して言った。
「あ……あぁ……右です……道幅狭いけどこっちの方がちょっとだけ近いから……」
振り返って正面から目が合った男子の顔が思ったよりも整っていて、まるで西洋の人形のようで、思わず目をそらしながら答える。
「うぅーん、右ですかぁ……時間無いんですが……しかし左から行くしか……。
よし、仕方無い、少し走りましょう」
「え?ちょ、え?何で?何が?」
「いいからいいから。
若いんですし、荷物からすると運動部でしょう?
朝練の準備運動だと思って、ほら、行きますよ」
そう言うと男子は傘を持った左腕を私の右腕に絡めて走り出した。
「や、え、あの……!?」
ただの相合傘どころでは無い状態になってしまいさすがに恥ずかしくて、走っている勢いのふりをして腕を振りほどこうとしたが、予想外にもがっちりと挟み込まれた腕は振りほどけず、二股の道の左側、広い歩道を備えた国道に入り、なおもしばらく走り続けた。
「ねぇ……ちょっと……荷物痛いから、ちょっと待っ……うわっ!?」
恥ずかしさ以上に、アーチェリーの用具一式を収納した背中のソフトケースがごつごつと当たる痛みに耐え兼ねて声をかけたその瞬間、まばゆい閃光と共に破裂音のような轟音が鳴り響き地面が揺れた。
「なに!?」
辺りを見回すと、右手の低いビルの向こうで頭だけをのぞかせている、街路樹と思われる大木が煙を上げながら真っ二つに引き裂かれ倒れていくのが見えた。
続いて今度はその大木が地面に倒れ落ちる地響きが届く。
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