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愛理は、ホールを突っ切って、ゴールドのピンヒールを鳴らして歩み寄った。
「おはよう、奏。」
愛理が声をかけると、バーカウンターの向こう側で無言でグラスを磨いていた青年が顔を上げた。
年は、20歳を少し過ぎたくらい。
背は愛理よりやや高く、細身の身体に黒のスーツを着ている。
長めの前髪が目にかかり暗い印象を与えるが、愛理を認めると優しく目を細めた。
「今日は、珍しく白のドレスなんだね。」
「そうなの。今日は、兄さまの命日だから……」
愛理は、切なげに目を伏せると、カウンターに頬杖をついた。
「そうか……愛理は、お兄さんのことが大好きだから」
奏は、フルーツの盛り合わせを愛理の隣に置いた。
愛理は早くに両親を亡くし、兄に育てられた。
しかし、唯一の肉親である兄も数年前のある事件で亡くし、愛理は天涯孤独となってしまった。
「もう、あれから何年経ったのかしら……兄さまに会いたいな。」
愛理は、フルーツには目もくれず、そのままカウンターに突っ伏した。
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