路地裏の入り口

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路地裏の入り口

 ある都会の路地裏にレストランがあった。そのレストランは有名なガイドブックで、有識者たちにより最高級であることを示す三ツ星を付けられたレストランだった。  そのレストランには数多くのセレブが家族で訪れた。  やって来たセレブたちは言った。 「三ツ星レストランにしてはみすぼらしい外見だな、本当に最高級なのかね」  路地裏にあり、まるで裏口のように小さいドアに薄汚れた壁。確かに、三ツ星にしては高級感がまるでなかった。  中に入ったセレブたちは言った。 「さっきのは取り消そう、確かにこれは最高級の称号にふさわしい」  内装はまるでルネサンス様式のように壮麗で煌々と輝いていた。そして何より全面鏡張りされた壁。セレブたちは装飾に唸りながら席に着いた。  並んだ料理を見たセレブたちは言った。 「これは素晴らしい料理だ。もはや美しくすら感じるよ」  現れた料理は今まで見たことがない、美術品のように美しかった。そして使われている食材は全て最高ランクのもので、それを調理するシェフも最高の腕を持つ者だった。  食事を始めたセレブたちは言った。 「見た目だけでなく、味までもが最高級だ。今まで食べた中で最も美味だ」  今まで最高レベルの料理ばかり食べてきた、グルメなセレブも舌鼓を打った。  食事を終えたセレブたちは言った。 「なんと!これだけ完璧な料理を、完璧な場所で頂いたと言うのに、こんな金額で良いのか!」  最高級の食材をふんだんに使用し、最高級のシェフが腕を振るい、最高級の場所で食べたフルコースが、たったの一万円なのだと言う。セレブたちは「また来よう」と口を揃えた。  演奏を聴き始めたセレブたちは言った。 「食事だけでなく、最高級のオーケストラまで聴けるのか!なんと素晴らしい!」  机が並ぶその奥にステージがあり、そこには管弦楽団が堂々と並んでいた。楽団員たちは真剣な顔つきで演奏を始めた。音楽に造詣が深いセレブが呟いた。 「これはスペインの楽曲だね、実に明るく快活で良い」  それを聞いた他のセレブたちは「そうか」とか「なるほど」とか言って感心した。オーケストラによる舞台は終幕し、楽団はいつのまにかはけていた。  レストランの支配人は言った。 「紳士淑女の皆様、おいで下さいまして有難うございました。以上で終了になりますが、ご歓談をお楽しみ下さいませ」  セレブたちは言った。 「素晴らしい!我々にこのような時間まで提供してくれるなんて。さすが最高級レストランだ!」  みな、心遣いに感心し歓談を始めた。そうすると一緒に来ていた子供達が暇を持て余し始めた。  レストランの支配人が言った。 「もし宜しければ、皆様のお子様をこちらでお預かり致しましょうか。隣の部屋にお遊戯室をご用意しております」  セレブたちは言った。 「おお、そうだね。厚意に甘えようか。さあ、行っておいで」  子供達は走って隣の部屋へと消えていった。それを見送った後、セレブたちは再び歓談を始めた。  その後、セレブたちは酒を飲み夜を明かした。  セレブたちは言った。 「いや、本当に楽しかった。こんな時間まで開けていてくれるなんて。また来よう。本当に素晴らしいレストランだ」  みな口を揃えてそう言い、満足そうな顔で帰っていった。酒に混ぜられていた薬のせいか、隣の部屋に行った子供達の事など覚えていなかった。  レストランの支配人は言った。 「またのお越しをお待ちしております」
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