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失恋ラブホテル
2035年8月10日
友永はラブホでエッチをし終え、テレビをつけた。恋人の浅山南がシャワーを浴びている。出会い系でゲットした。高校のときはバスケのマネージャーをしていた。
お笑いの途中でニュース速報が入った。
目黒での刺殺事件の続報だ。行人坂からは目と鼻の先にある池田山公園の庭園から血のついたダガーナイフが見つかったらしい。
三田用水を引き込んで池泉回遊式の庭園を設けた、大崎屋敷とも呼ばれる。
友永は被害者のことを知っていた……というかメチャクチャ嫌いだった。
ゲームクリエイターで、ロープレから歴史シュミレーションまで何でも手がける。『スマホアプリのドラクエをやっていて、同じようなゲームを作ってみたい』とエントリーシートに書いて、被害者が経営する『エブリステーション』ってゲーム会社の就職試験に挑んだ。3週間前に面接があったばかりだ、『大学を卒業してからかなりブランクがありますね?やる気が感じられません』と一蹴され、不採用通知が送りつけられてきた。
手でビリビリにして破り捨てた。
殺人鬼に感謝すらしているくらいだ。
シャワーから南が出てきた。バスタオルを巻きつけてる。乳がはちきれんばかりだ。
チョコんと友永の隣に座った。
シャンプーのいい香りがした。
「アナタって顔もいいし?性格もいいよね?最初のデートのときのエスコートはナカナカだった、でも、エッチが下手ね?あと、歯くらいキチンと磨きなよ?納豆臭い、そーゆー人はキライ、別れましょ?」
ラブホから出て目黒川を眺めた。赤く染まった夕陽にカラスが寂しげに泣いている。
涙が溢れそうになった。
初恋を思い出した。中2の夏休みの前日、水泳部の池田里香にラブレターを渡した。
体育館の裏だったから、『リンチでもされんのかと思った?家に鏡あんのかよ?ガンもどきみたいな顔しやがって、アタシを好きになろうなんざ、100年早いんだよ!』ってビンタされた。
ガンもどきみたいな顔だから嫌われるなんて思ってもなかった。しばらく家にひきこもった。延暦寺焼き討ちみたく、里香の家に放火してやろうかとも思ったくらいだが?担任の平手ノラが心配して来てくれた。
ベッドでエロ本を読みながら快楽の園に行こうとしていたときにチャイムが鳴ったから心臓が止まるかと思った。
『先生はいつでもトモ君の味方だよ?先生ね?池田さんのこと正直、好きになれないんだ?部活では活躍してるみたいだけど、後輩にも冷たいんだ』ノラ先生は水泳部の顧問だ。『バタフライが出来ないからって理由でスクリュードライバー仕掛けたり、信じられないよね?バタフライナイフで刺しちゃおうかな?』
教師とは思えない発言だったが、その過激な発言によって友永は立ち直ることが出来た。
その頃、友永はコンセントピックスにハマった。『傑作』ってアルバムだった。なかでも、『顔』は傑作だ。
《顔がキライ♪顔がキライ♪アンタの顔がきらいなだけ♫ごめんね 君はいいとてもいいひと♫ だけど顔がきらいなの♫》
バブル時代とかって異次元で流行ったバンドだ。
かい人21面相が世間を騒がせ、植村直己がマッキンレー登頂に成功するが消息を経ち、インドのガンジー首相が射殺され、エイズの恐怖が世界に広まり、全国の小・中でいじめが横行したそんな時代だ。
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