17人が本棚に入れています
本棚に追加
人通りのない歩道で、さした傘をくるくると回してみる。
傘にたちまち溜まった雨のしずくが、遠心力で四方に散って
青の濃淡に鮮やかに染められた紫陽花を揺らした。
『この傘の絵の趣味は、微妙だけれどもね・・。』
まりかは肩をすくめてくすりと笑った。
電車を二つ乗り換え、目的の駅に着くころには、
雨脚も少し強くなって来ていた。
駅から二十分も歩けば、母の実家と清水のアパートに着く。
少し足を速めてまりかは歩き出した。
気づくときゅっきゅっという音が、ずっと後ろからついて来ている。
まりかが振り向くと、黄色いレインコートを頭からすっぽり被り
水色の長靴をはいた六歳くらいの男の子が、
直ぐ近くで同じ様に立ち止まり、彼女を見上げている。
音は彼の長靴が、濡れたアスファルトを踏む音だった。
最初のコメントを投稿しよう!