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喧嘩
「そしたら昇ったらね……」
「はいはい、もう聞き飽きたっつーの」
ハイボールのジョッキを片手に、和美はうんざりしたようにそう言った。
私と昇が出会ってからはや2ヶ月、互いに下の名前で呼び合うほどの仲に進展していた。久し振りに会った和美に、彼との思い出話をしていると、彼女はいつの間にかこんな状態になってしまっていたのだ。
「もう、ちゃんと聞いてよ~」
「聞きたくない!」
和美は目を固く閉じ、両手の平を耳に強く押し当てた。
馴染みの居酒屋で顔を突き合わせている私達は、すでにそれなりのアルコールが入っており、ややハイな気分になっていた。
「私達の恋ってもう小説のネタになるレベルの話じゃない? そうね、タイトルをつけるとしたら『図書館の恋』ってところかな?」
「絶対売れな~い」
私達はしばらくゲラゲラと大笑いした。
「ところでさ、森下秋矢の新刊、もう読んだ?」
和美が言っているのは、最近発売された超人気作家の長編小説だった。
「それがまだなの」
「嘘でしょ!? あんな超話題作まだ読んでないの?」
「それがね、何をしてても昇の顔が頭に浮かんできて集中できないの。もう頭の中全部昇って感じ!」
顔を赤らめた私は、恥ずかしげもなくだらしない笑顔を浮かべてそう叫んだ。
「あーあ、こりゃ重症だわ」
和美は呆れたように頬杖をついた。そして突然、何かを思いついたようにハッとして、続けて言った。
「ねえ、私もその人に会わせてくれない?」
「ええ~……」
和美のその提案に、私は反射的に拒否反応を示した。
「何よ、いいじゃない」
「だってあんた美人だし、もしかしたら昇があんたのこと好きになっちゃうかもしれないし……」
私が正直な意見を言うと、和美はすばやく反論した。
「じゃあ私があんたの男を奪うとでも言いたいわけ!?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「じゃあ決まり。近いうちに私達3人で会える機会をセッティングしてちょうだい」
こうして私は半ば強引に、そのような場を設けさせられることになったのだった。
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