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私は図書館にある、あの思い出のベンチへやってきた。スマホで時間を確認すると、午後6時過ぎだった。今の時期のこの時間はまだだいぶ明るい。私は例のベンチに腰掛け、館内から和美が出てくるのを待った。
今日が彼女の出勤している日であるかは知らなかった。でも私は絶対に自分の口から直接想いを伝えたかった。今すぐに伝えたかった。
午後7時過ぎになり、図書館の電気が一斉に消えた。ほどなくしてぽつぽつと職員と思しき人達が建物から出てきた。
その最後に和美の姿があった。私と数メートル離れた距離で、驚いたように目を見開いたまま立ち尽くしている。
「なんて顔してるの? 早くこっち来なさいよ」
私は笑顔で和美を呼び寄せた。すると彼女は戸惑いながらも、私のそばへやって来た。
「座って」
私のお願いを彼女は聞き入れてくれたようで、素直に私の隣に腰を下ろした。和美はどこか、不安げな表情をしている。
私はもう待ちきれないとばかりに、自分の想いを告げた。
「あのね、あれから私、色々考えたの。あんたとどれくらい一緒にいたかなとか、あんたと図書館で過ごした時間は楽しかったなとか、あんたには色々助けられたなとか……」
和美は黙ったまま私の言葉に耳を傾けている。
「そしたらね、気付いたの。ああ、私も世界で一番和美が好きなんだなって」
ほんの少しだけ和美の表情が変わった。
「和美が私を好きな気持ちと、私が和美を好きな気持ちが同じかどうかは分からないけど、もうそんなことどうでもいいやって思ったの。だって、好きであることに変わりはないじゃない?」
段々和美の眉がハの字になり、目が潤んでいく。私は彼女の前に右手を差し出して、笑顔で言った。
「だから相田和美さん、私の恋人になってください」
和美は右手で口を押さえると、それと同時に彼女の目からは真珠のような涙が止め処なくこぼれ落ちた。
「ほら、さっさと握手しなさいよ」
私は半ば強引に彼女の右手首を掴むと、私の手と握手させた。
「本当に、いいの……?」
「あんたみたいないい女を振る人なんて、この世にいるわけないでしょ?」
私がおどけた口調でそう言うと、彼女は嗚咽を漏らし、一層激しく泣いた。
「ほら、もう泣かないで」
私は彼女の華奢な身体をやさしく抱きしめた。ほんのり甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「夢なら……覚めないで……」
和美が嗚咽交じりの声で小さくそう言った。私はこれまでのただの友達だった時間を埋めるように、いつまでも彼女を抱きしめ続けたのだった。
思えば和美の図書館の恋は、私と初めてこの図書館に足を踏み入れたその瞬間からすでに始まっていたのだ。13年前のあの日から――。
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