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俺はなんとか下を見ないように意識していたが、 谷底に落ちるかもしれないと言う恐怖で思うように進めない。
時折りダンジョン内に風が吹くとしゃがんでその場をしのいでいたのだが、 僅か500mが果てしなく遠く感じてしまう。
「落ち着け…… 道幅は1mはあるんだ、 普通に歩けば落ちる事なんて有り得ない…… 」
自分に言い聞かせる様に呟いた。
ゆっくりだが着実に進んでいる大丈夫だ。 少し慣れてきたので最初よりは進行速度は上がっていた。 体勢を低くし中腰で進むと俺が目指しているゴール地点は、 この道幅から考えても小さなスペースがあり、 中央には円形の台座の様なものが遠目でも確認できた。
「めっちゃ怪しいだろアレ。 絶対確認してやるからな! 」
少しモチベーションが上がり台座まで残り150mぐらいの距離を歩いていた時だった……
突然大空洞全体に不穏な音が響いてくる。 まるで何百、 何千もの人が行進しているみたいな地響きのような音だった。
ザッザッザッ……
「な、 なんだっ!? 」
ザッザッザッザッザッ……
音は段々と大きくなっていくと次第に足元に微かな揺れが伝わってくる。 俺は地響きの発生源である谷底へと視線を向け、 暗闇の中を凝視するのだった……
俺の額から汗が噴き出すと一気に血の気が引いていくのがわかった。
「ちょ、 ちょっと待ってくれよっ! 谷底からこの道に、 何かが大量に這い上がって来ているのかっ!? 」
やがて視界に映り込む大量の異形の者達。 断崖絶壁を埋め尽くす数が、 山頂を目指すかのように、 両脇から一斉に這い上がって来ていたのだ。
湧き上がる絶望感に身動きが取れず、 俺はただ奴らを見ている事しか出来なかった……
「はは…… まるで化け物のスタンピートだな…… 」
俺の脳裏には不意に先日殺した赤黒い化け物が思い浮かんでいた。 まさか、 俺があのネームドモンスターを倒したからなのか?
奴がこのダンジョンの支配者の様な存在だったとしたら、 統率者がいなくなり残された化け物達が暴走するのも頷ける。
「くそっ! じきコイツらは這い上がって来る。 引き返すような時間はないよな…… このまま台座まで行けるか?」
鳴り響く轟音は空間を揺らし俺の体を恐怖で支配していく。 石のように重い足を一歩また一歩と必死に操ってひたすら前進する。
「動け動け動け動け動けよっ!! 」
叫び声を上げて無理矢理気合いを入れると、 なりふり構わず一気に俺は走り出す。
前だけを見るんだ! 下を見たら二度と走れないような気がする。
あと100m行けるぞ!
きっとあの台座には何かある、 確信はないがあそこはダンジョンの最深部になるのだから。 何がなんでも辿り着いてやる。
「オォォッ!! 」
幸いな事に目の前に見える台座があるスペースの壁面には、 湾曲しているからだろうか谷底から化け物達は這い上がっては来ていなかった。
「くそっ! じゃまなんだよっ! 」
10m程先には既に道の縁へと手をかける醜い小鬼の様な化け物がいた、 俺はスピードを緩めず腰のホルスターへとファイターナイフを収納した後に、 警棒ホワイトウルフを素早く引き抜いて、 力強く握り締めたのだった……
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