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襲撃に気づいたのは、ほんの数刻前のことだった。
鈴虫唄う、満月の夜。
奥御殿で一つ年下の妻と静かに就寝していたところ、狼狽した兵士がうわずった大声を上げながら駆け込んできた。
「奇襲ー! 奇襲ー!」
目を覚ましてすぐ、ゆらゆらと蠢く赤い光に目が眩んだ。
青年は寝巻きがはだけるのを気にせずに飛び起きる。
枕元の刀を手に襖を開けたが、愕然とした。青々と生い茂る庭に面した縁側のはずが、そこはすでに火の海だった。
「畜生!」
青年の怒声は、轟々と燃える炎に吸収される。
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