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 青年は父の死去により家督(かとく)を相続し、城の主となってまだ間もない。  馬鹿者、まぬけなどと陰口を叩かれ、部下や民からは不信を買っていた。  幼少期のやんちゃ癖は()ることながら、父の葬式で、位牌(いはい)めがけ焼香の灰をぶち()いた事実が、青年の悪名を決定づけた。  青年にとっては他愛(たあい)もない行為だが、広まれば広まるほど大げさな噂を呼び、取り返しのつかない事態を招く。  火種は早いうちに消すに越したことはない。そんな早とちりが、この卑怯極まりない奇襲の動機だろう。 「退路は」  息を切らし、泣きながら(ひざまず)く伝令に、青年は察したことを()いた。 「すべて、火に(ふさ)がれております……。門番にあたっていた数名が、敵に内通していたようで……城を取り囲むように敵を誘導し、一斉に火を放ったものと思われます」
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