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「すまぬ。余の妻になったばかりに」
青年の震える声に、妻は振り返らなかった。
青年は独り言を連ねる。
「余はただ、この日本を変えたかったのだ。大名は常人ばかり。常人は時代の流れに流されるだけだ。戦国の世を変えるには、誰かが突出して流れを変えなければならぬ。人と人が殺し合いながらでしか生きられない、そんな呪いのような風習を打ち破るには、もはや正義だけでは足りぬ。大きな恐怖が必要なのだ。余はその元凶に、喜んでなるつもりだった。戦国の世が、終わるなら」
「ここで諦めるのがただの常人よ」
振り返った妻の姿は、炎と月光に照らされて輪郭がぼやけ、堕落した女神のように錯覚した。
「みんな所詮、生まれながらにして常人。秀でた才能を持つには、意志が必要。あなたは誰よりも、意志が強いだけの人。時代を変える魔王になりたいのなら、一度決めたことは最後まで貫きなさい。私も、あなたについていくと決めたのです。たとえこの身の行き着く先が、地獄だったとしても」
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